第19話 「逆転裁判」
「えー。では、これより昨日の夜に、所持金が増えていた事件の裁判を行うのじゃ!!」
「……ノワール側準備できております」
「ナリカネ側。もとより」
朝食を終えてすぐ、俺たちは部屋で集まり、この不可思議な事件の解明を始めた。
ちなみに裁判長として、昨日の事件があった時間に寝ていたナイアに判決を委ねている。
「それでは、最初の証人を招き入れるのじゃ。……ノワール」
「分かりました」
~ノワールの証言~
「あの日、私はギルドマスターやキリクさんと同じテーブルで会話を楽しんでいました」
「変わったことは特になかったように感じますね」
「誰かから、何かを貰わなかったか、って? ……ああ、そういえばノノさんたちから魚を分けて貰いましたよ」
「……ほら、私猫ですから」
「今回の事件は、きっとご主人が犯人ですね。居酒屋のあちこちで色んな冒険者と話してたみたいですし」
「いつか何かすると思ってたんですよ」
「ふむ。証言は以上かの。……では、ノゾム。尋問を許可するのじゃ」
裁判長の許可が下りた瞬間――
「待った!!」
ダンっ!
――言葉と共に俺は両手を机に叩きつけながら、続けた。
「ノワール。……お前はこう言ったな。『ノノさんたちから魚を分けて貰った』と」
「……ええ。確かに言いましたね。それがどうかしましたか?」
「ふむ。妾も聞いたのじゃ。……まぁ、猫は魚を食うものらしいしの。おかしくないのではないか?」
「……ええ。確かにノワールが普通の猫なら問題は無い。でも……お前は『スキル』じゃないかっ!! お前が食べれるのは『お金』だけだろうがっ!!」
「うにゃぁぁああああああああっ!!!!」
ノワールは叫びながら、大きくのけ反った。
どうやら、気づいたようだな。自分の発言の『矛盾』に……
「静粛に!静粛にするのじゃ!! ……ノワール。確かに言われてみれば、そなたが何かを食しているところなど、妾も見たことがないのじゃ。証言の訂正をお願いするのじゃ」
「ううぅ。分かりました」
~ノワールの証言②~
「確かに昨日。私は魚以外の物を受け取りました」
「ですが、それは今回の件とは無関係です」
「異議ありっ!!」
ビシッ! と指を突き付けながら、俺はノワールの発言を遮った。
「ななな。何を言うんですか?」
「うむ。ノゾムよ。証言の途中で遮るなど非常識極まりないぞ? ……何か理由があるのかの? なければ、それなりのペナルティを受けてもらうが……」
「裁判長。こいつを見てください」
俺はそう言って、自分の懐から銀貨を取り出し、裁判長に突き付けた。
「これは銀貨? ……かの?」
「ええ。そうです……昨日ノワールがキリクさんから受け取った後、人前で銀貨を食べる訳にもいかないので俺が預かっていた銀貨ですよ!!」
「なんじゃとっ!! ……それではこれは、圧倒的な証拠ではないか!!!!!」
「うにゃぁぁああああああああっ!!!!」
ざわざわざわざわざわ……
俺たちは少し、ざわざわしていた。
まさか犯人がこんなに身近にいたなんて……
「残念じゃ。ノワール。……このような判決を下さんとならんとはのぅ」
そう言いながら悲しそうに首を振る裁判長。
「じゃが、この裁判は真実を明らかにするための裁判じゃ。……では、判決を下すのじゃ」
裁判長がそう言って、結論を出そうとした瞬間――
「待ったっ!!」
――ノワールの声がそれを止めた。
「裁判長。この事件にはまだ、明らかになっていない『謎』があります」
「明らかになっていない『謎』じゃと?」
「ええ。この証拠品を見てください」
そう言って、ノワールは床にある銀貨の山を指さした。
「私が昨日、キリクさんから銀貨を受け取ったことは事実です。……ですが、それはこれほどの山ではない。」
「……ふぅむ。成る程。確かにキリクが十万も一日に貢ぐとは考えにくいのぅ」
「ええ。……この『謎』について、私は最後の証人をお願いしたいと思っています」
「……最後の証人? そんな人物がいたか?」
「惚けないで頂きたい……それは、あなたですよ。……ご主人っ!!」
「なにぃぃぃ!!」
こいつ! この期に及んで俺を売りやがった!!
「静粛にっ! 静粛にするのじゃ!! ……確かにノゾムも現場に居たことじゃろうし、証言を聞いてもいいじゃろう」
「……裁判長がそう言うなら。」
~ノゾムの証言~
「確かに、あの日。俺は居酒屋で色んな冒険者と会話していた」
「でも、それはお酒や食事を配ったりするためで、疚しいことは何もない」
「俺を疑うなら明確な証拠品を出してほしいね」
「意義ありっ!!」
先ほどの俺のように、ノワールが俺の発言を止めた。
「裁判長!! こちらには証人がいった明確な証拠品の準備があります!!」
「うむ。提出を許可するのじゃ」
「くらえっ!!」
そう言ってノワールが出したのは、一つの革袋だった。
「これは確か、……問題の増えた金が入っていた革袋ではないか」
「ええ。……ですが、裁判長。今回見てほしいのは中身ではなく外側。革袋自体ですっ!!」
革袋自体? 特に何もなかったと思ったが、……まさか昨日の夜だと暗くて見逃したのか!?
「ふむ?……これは何か書かれているようじゃな。ええと、……ノゾムさんへ? ……ノゾムさんじゃと!?」
「なにぃぃぃぃっ!!!!」
ざわざわざわ……
俺たちはざわざわしていた。まさか、以下略。
「残念じゃ。ノゾム。パーティのよしみで聞いてやろう。最後に言い訳はあるかの?」
「俺はただ同情するなら金をくれって言っただけなんだ!! 俺は悪くねぇっ!!」
「うわぁ。開きなってますね」
「うむ。では、判決を下すのじゃ。ナリカネ ノゾム。そなたは…有罪っ!!」
こうして、昨日の事件は解決した。
嫌な事件だったね。
「――っという訳なんだ」
「ナイア。分かりましたか?」
「うむ。妾が寝ている間に銀貨が増えてた理由は分かったのじゃ。……じゃが、普通に話した方が早かったのではないかの?」
そう言われたら、おしまいである。
しょうがないじゃないか。一度はやってみたかったんだ。こういうの。
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