第4話 「馬鹿と転移と召喚獣」

 オッス!!

 おら、ナリカネ!!

 ある日、急に神様に異世界に飛ばされたんだけど、そこはモンスターの跋扈する魔王城だった。

 危機一髪、難を逃れた先で地下室的なサムシングに落ちるという切なさが炸裂する状況。

 まるで、物語の主人公のような状況に、おらぁワクワクしてくっぞ。

「……いや、流石にそこまで能天気にはなれないわ」(小声)

 脳内で簡単に状況をまとめて見たが、明るく言っても絶望的である。

 暗くいうなら――

「絶望!! 圧倒的っ絶望!!」(小声)

「……ざわっ……ざわっ」(圧倒的小声)

 ――と、なるだろうか。

 ……うん。

 心なしか顎も尖ってきた気がする。

 暗闇の中で、一人馬鹿をやっていると、少しづつ落ち着いてきた。

 ふぅ。

 やっぱり、異常事態にこそ、いつもの自分であるべきだな。

「さて……とりあえず、探索をするべきなんだろうけど」

 小声で呟きつつ考える。

 今、何も見えない状況では動くのも怖い。

 見えないだけでモンスターとか近くにいるかもしれないし。

 ――だからこその小声なのだが。

 実際、気づいたらモンスターの口の中でした、なんてことにもなりかねないのだ。

 ……ナリカネだけに。

 ~審議中~

 さて、脳内会議で座布団を一枚要求しながら、考える。

 そして、思いついた。

 ……もし、ここが本当にファンタジーのような世界なら、方法はあるかもしれない。

 俺は体中から力を集めるようなイメージで、右手に集中しながら掌を上に向けて言葉を紡いだ。

「漆黒の闇を払い、我が前に希望を照らさんっ!! ライトっ!!」

 だが、現状は何も変わらなかった。……いや、厳密には変化はあった。

 変な力の籠め方をした俺の腕がつった。

「うおぉぉ! 痛いっ! いたいたたぁ」

 一人でしばらく悶える。

 ……うん。

 ちょっと落ち着いてきたな。

 左手でつったところを伸ばしながら、考える。

「……冗談でやってみたけど、なんか変な感じしたな」

 正直、魔法は使えないだろうという気持ちでやってみたのだが、なんか体の力を集めるイメージの時に、お腹の辺りからぽかぽかしたものを感じた。

 なんというか、本当にエネルギーのような感じ。

 ライトを使おうとしたら、使えなかったみたいだけど。

 ……その感覚は未だに感じている。

「んー。なんだろう。……なんか出そうで出ないんだが」

 ライトではない? じゃあなんだ? 

 俺は少し考えることにした。

 ……

 …………っ!

 そして、閃いた。

「思い出した。俺は天才かもしれない」

 この世界に来るときに、俺は確かに聞いたのだ。


『私から一つだけ、力をあげよう』


 そう言った神様の声を。

「……これは、もしかして」

ドドドドドドドドッ!!

 ――気づけば、俺は立ち上がり、低音で効果音を呟きながら、片手で顔を隠しつつ、上体を反らし、ポージングを決めていた。

「『目覚めた』のかもしれない……この俺が。『今』ッ!!」

 そこに小声で話す臆病者はいなかった。

 今、俺の瞳はある種の期待に輝き、確実に明るい未来を見ていた。

「未来は……明日とは……今だっ!! 発現しろ!! 俺の能力!!」

 漠然とした命令だが、その言葉における変化は劇的なものだった。

 自分の体にあったエネルギーが渦を巻き、腕を伝い、放出される。それがはっきりと感じられる。

 エネルギーは光となり、辺りを照らしながら、掌の上で形を成し、具現化という結果として現れた。

 そう。

 それは数瞬の出来事であった。

 掌から伝わるその感触に、能力の実体化が夢でないことを感じ、その生み出された物に触れた瞬間、自分の能力がはっきりと理解できた。

 その現実を超えた効果。

 更に、特異性から弱点まで。

 異能力者に足を踏み入れたことへの喜びを感じながら、次の瞬間。

 ――俺は座り込み咽び泣いた。


 そんな俺の手の中では、黒い招き猫型貯金箱が握りしめられていた。


 スキル<貯金>

 お金を安全な場所に保管できます。

 限度額一億

 取り出し自在


 死にスキルでした。


「あぁんまりぃだあぁぁぁ」



 ……ふぅ。スッキリしたぜ。

 泣くという行為は、やっぱり必要だから人体にプログラムされてるんだね。

 前の世界の神様に感謝である。

 まぁ、確かに予定とは違ったスキルだが、お金を安全に保管できるということが、この世界では素晴らしく重宝されるのかもしれないし。悲観するのはまだ早いだろう。

 弱い能力ほど侮れなかったりするのだ。

 ……最弱こそ最恐ってね。

 更に、この状況で優秀なのが、この貯金箱出すときに光るのだ。

 まぁ、一瞬ですけどね。

 取り出し自在というのは本当で、消したり出したりは自分の意思で出来たし、疲れたりもしなかった。

 それを利用して、俺は出して、消して、高速で繰り返しながら自分の現状を確認することが出来た。

 ……おおぅ。

 目がチカチカする。



 さて、結果発表。

 今、俺はどうやら部屋の中に居るようだった。

 部屋自体は直径十メートルくらいの正方形で室内は無人。

 部屋の中央に金色のメダルが積み上げられていて、俺はその上に滑り落ちてきたらしかった。

 部屋の片隅には水晶とかよくわからんものが数点だけ、机に置かれている。

 上は光が足りず見通せないので、良く分からなかった。

 以上。

 結論から言おう。――出口がないことが分かった。

「絶望したー!!」



 ……

 チャリ

 チャリン

 ……

 チャリ

 チャリン


 あ、どうも。

 僕はナリカネです。

 しがない負け犬です。ははっ。

 僕なんかが成り上がろうなんて、ちょっとでも考えたのが間違いだったんですね。

 今は、身の程ってやつを知りましたよ。

 チャリ

 チャリン

 え?

 この音は何かって?

 落ちているメダルを貯金箱に入れているんですよ。

 小学生どころか、幼稚園生でも出来る簡単なお仕事ですね。

 ふふ。僕にはぴったりだ。

「いちえんなーり、にえんなーり。……一枚足りなーい」

 ――などと、前世を思い出しつつ、メダルを拾って入れていく。

 いや、この部屋では他に娯楽がないのだ。

 水晶とか万華鏡っぽいのとかもあったけどよくわからんし。

 ……まぁ、貯金は好きだったので、貯金している時は楽しい、というのが偽らざる本音なんだけれど。

「貯金をする時っていうのは、自由で、救われてなきゃ駄目なんだ。……独りで静かで豊かで」

 条件を満たしていた。

 孤独であることは間違いない。

 ちなみに、いちえんなーり、とか言ってるがこのメダルそんな可愛いものではなかった。

 スキルの効果で貯金額が見えるのだが、一枚入れた瞬間二万近く貯金額が増えたのだ。

 多分、前の世界の紙幣に近い感じなんだろう。

 というわけで、精神安定の為に床のメダルを拾い、手元の貯金箱に入れていく。

 ちなみに、この貯金箱の中は恐らく不思議空間だ。

 いくらでも入るし、振っても音がしないのだ。

 お金を出すと念じたら、口からペッと出てくる。……不思議である。

 だが、そんな至福の時間も終わりを告げた。

 今、最後の一枚を入れ終わってしまったからだ。

 ああ、無常。

 ピコンっ!

 ――、とその時、突然、頭の中で音がした。

<スキル貯金が限度額に到達しました>

<条件を満たしました。スキルを改変します>

<代償として、一億を消費します>

「……え? ……うおっ!! あっつ!!」

 俺は思わず、手にしてた貯金箱を床に置いてダッシュで離れた。

 部屋の中央で赤く輝きだした貯金箱を見る。

 ……アレ、爆発したりしないよな?


 やがて、光が落ち着き変化が終わった。

 ――そこには。


「これからよろしくお願いします。ご主人」


 そう言って頭を下げる黒猫がいた。


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