4話 至るまでに (1)
三章 四話 「今いるここは…… 」
良い気分だお客様に喜んでもらえたし、何より仕事に対するモチベーションが上がる。 このくらいでモチベーションが上がるあたり俺は単純なんだなと思うな、はは。
「お、宮君(みやくん)今から仕事?」
後ろから声をかけられた、俺のことを宮君と呼ぶ男は一人しかいないからすぐ誰かわかったが、俺の後ろに立つな! って言ってみたい。
「おー、竹やん! そなんよ今から日常を始めるところだよん 」
声の主は竹河則友(たけがわ のりとも) 同じ旅館で働いている仲間だ。
竹河は深夜の見回りと館内の警備をしている、本人曰く自宅警備員らしい。ちなみに俺は親しみを込めて、タケ(竹)やんと呼んでいる。
「仲居チームは大変だなぁ、朝早くからいろんな仕事任されてさ」
「そうか? 慣れるとそうでもないし、むしろ俺からしたら深夜の警備の方が大変そうだ。オバケが出てもソロプレイだろ?」
慣れるとそうでもないは本当だ。
朝6時くらいに起きて、支度に30分くらいかかるが寮から本館までは5分とかからないからそのあたりは便利。
さらに、来る途中で外の空気に当たることができて冴えてくるから今のところ大変だと感じたことはたぶんない…… たぶんな。
「オバケか〜…… 猫耳ヤンデレの15歳前後の美少女霊なら、降霊術してでもソロプレイで立ち向かうよ。それ以外なら大声出して宿泊客達と協力プレイかな 」
さすがとしか言えないな、ロリコンまでなら許せるが嫌な霊ならお客様を巻き込んでもいいというスタイル。その場合、女将さんがラスボスになる予感もするけど。
「俺は起こすなよ、霊とか勘弁だ。 よくホラー映画観てるから実際に起こると、真っ先に逃げるタイプなんだよ。もちろんソロでな! 」
「宮君なら逃げるね、わかるよ。お客が助けを求めた場合でも適当に言い訳して、その場を去る一択ですね? わかります 」
おいおいもう少し信用してくれよ。それにまだ甘いぞ竹やん!
「俺ならさらに、ホントに怖くて泣いてるのを利用して泣きながらに戻ります! と言って去るが正解 」
言ってて恥ずかしくないかって? ありえない、なぜなら自分が助かればその状況を打破できるかもしれないから、まずは自分だ。
「宮君に騎士とか冒険者は無理だな 」
「そんなことないぞ、騎士なら決闘の前に逃げてそいつの悪口を風潮しまくって仕返し、冒険者ならパーティにその場を任せてどこぞの助っ人を引っ張って助けに戻るから 」
どっちも即対応は逃げるあたりが実に現実的だな。
「パーティが全滅してたらどうするんだよ?」
「全滅した仲間達に、俺がもっと早ければ〜…… とか言いながら泣いて遺体or遺品に謝る 」
ひどいかもしれないが俺含め全滅した方が最悪だ、だから俺がとる行動は間違ってないよね?
「宮君…… そんな君を見てると自分がとても逞しく見えてくるから怖いんだけど 」
え、何それ褒めてるの? けなしてるの? 愛してるの?……キモいぞ〜 最後の俺。
「実際逞しいと思うぞ竹やんは、もっと他にも愛想よくしてれば無敵になれるかもしれないな 」
竹やんは他の仕事メンバーとあまり話しが合わないのか、基本仕事終わったら寮に戻っておそらくゲーム三昧なんだろうな。
「宮君は愛想がいいのかテキトーなのかよくわからないよね、でも話しやすいからそれで良いと思うよ今日この頃は 」
褒めらりちった。
「話しやすいか、一番仕事仲間に言われて嬉しい言葉かもな、でも可愛い子に言われたい! だって男の子だもん!」
素直に嬉しさを受け止めるのに慣れてないのもあり、はぐらかしてしまった。ありがとう竹やん。
「それには同意!…… あ〜……」
同意! のあとにしてはだいぶ暗いトーンだな、悩みごとでも思い出したの?
「どうした? 警備中になにかよからぬものでも見たのを思い出したのか?」
「違うよ〜 、ほらあの事件? 革命? の首謀者が捕まった話し 」
珍しく真面目な会話になる予感がして逃げようかとも思ったが、内容か気になってしまったので話しを続けよう。
「そんなんあったけ?」
「ほら、3年くらい前に世界中を巻き込んだテロみたいなやつ!」
やばい、結構おおごとなはずなのにわからない。
「あ! ごめんよ宮君にはここに働く以前の記憶ってないんだっけ? 最初聞いた時はホントに記憶喪失っているんだって思ったよ。そんなところだけラノベ体質か!…… でもホントごめんデリカシーなかったね」
「俺にデリカシー使うなら、いつか来る彼女に使え! ようするに全然気にしないから続けて」
でもそうだな、そういえば俺は一応、記憶喪失という病気? らしい。
この旅館に来る前までの記憶が全くないのだ、断片的なものもデジャヴのようなことも起きない。
少し思い出してしまった、ここに来る前のことをーーーー
ーーーー ある病院の一室にて、ベットで寝ている「彼」がいる。
夢も見ることなく、目が覚める。
「…… ァ…… ゥ……」
言葉が出ない、しかし脳は言葉を知っている、視界に入る物のことも理解できる、ここは病院の一室だ。
静かだ…… もう少し騒がしいイメージがあったのだが、アナウンスの音すら聞こえない。
身体も思うように動かない…… まずは状況を確認したいな。
そんなことを察知したのか、はたまたカメラ的な何かで見ていたのか知らないが、一人の女の子が入ってきた。
その少女は、一言で言うなら無愛想なお利口さん、失礼だと思うが、それが第一印象だ。
容姿は可愛い系だな、黒の髪を結んでいて無愛想をその髪型で充分和らげているぞ。
「おはようございます。いきなりですが私を存じてますか?もし言葉や身体の自由がきかなければ、目で合図をお願いします。知っているなら目をゆっくりまばたきしてください。知らないなら私がいいと言うまで閉じていてください 」
この子は有名なのか? だとしたら記憶の確認手段としては理解できるが、なんだろう…… 少し寂し気な表情だな。
「それでは改めて、私を存じていますか?」
「…… 」
ゆっくりと目を閉じる、機械の動作している音と少女の息が聞こえる。
「開けてください 」
目を開けるとそこには最初見た時よりも気のせいか、少女の表情は柔らかくなっている。
「それでは確認も取れたので、少しだけあなたの置かれている立場と今後どうするのかを説明させてください」
いきなりだな、他に医者が来て目が覚めたぞー!……とかないの?
「まず始めにあなたが記憶をなくした経緯については私から説明できることはありません、しかしあなたの今後は国が全力でバックアップをします。」
「ですがそれではあまりに唐突で説明になっていませんよね、 それでもあなたには私を心底信用してもらい、今後についてもできる限り従っていただきたいです」
マジかよ…… なんだそりゃって言いたいけど、とても不思議な感覚だ……
記憶が全くないことに恐怖もそれに伴う混乱も全くない。それにこの子の言っていることには従いたいとも思った、よしどんと来い。
「これは超法規的措置の一種だとでも思っていただければスムーズに話しが出来ます。その理解で聞いていてもらえないでしょうか?」
なんだ? メイドさんとかが四六時中お世話してくれるとかか? なら何も聞かないのでお願いします。
「…… 」
身体が少し動いてくれた、頷く動作をする。
「頷くことができるなら意思の疎通は容易にできそうですね」
たしかにこの動作一つで是非の確認ができる便利だな、身体ってマジ大事。
「では今後の説明をさせていただきます。まずあなたにはどこかで働いてもらいます。職種は問いません。次に、あなたがこれから関わるであろう職場の人間、知人になるであろう人間それら全てに、できれば私のことやこの特別措置については言わないでください 」
なんだよ、働くのかよ…… 世知辛いなその超法規的措置とやらは、それに"できれば"…… っかあまり拘束力がない言い方だな。
「…… 」
「ありがとうございます。 次に、あなたには今まで関わってきた人間はいません。親含めて知己すらいません」
なん…… だと…… どんだけ不幸やねん、友達ゼロかよ!
親がいないについては特別な感情が湧かない、俺って順応性が高いのか冷めてるのかわからないな。
「私からの説明は以上です。混乱する状況だと思いましたが案外落ち着いていますね 」
俺だってわからん、でもストンと落ちたように受け入れることができているんだから仕方ない。
「働く際に最初の面接時だけは、私が保護者代わりで付き添いますので、早く働く職種を決めてください 」
またまたいきなりだな、どんだけ難易度高い人生を強いる気だよ。
「わけがわからないとは思いますが、あなたの変化と結末を知りたいんです私は…… だから受け入れてください 」
なんのことだ? でもこの子の言う通りにしようと思う。これまた不思議なことに不安がないのだ。
「…… わかっ……たよ…… 」
「!! 」
会話してきたその子からそんな驚きの表情をされるとは、頑張った甲斐があるな喋っただけですけどね。
働いてみたいところか〜 ……
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