すいません、「俺」、記憶ないです

志奏

プロローグ

第1話プロローグ1 中学生編



一章「夢の終わり、夢の始まり 」




熱い…… 苦しい……




「生きてる……のか?」


燃えさかるバスの中、1人の少年がやっとの思いで声を出す。


そして、少年に寄り添うようなかたちで五人の少女達が倒れている。


その内4人の少女達は、おそらく即死であろう悲惨な状態、だが1人の少女が声を出す。


「生きてるよ。あなたは生きてる 」


近くで見ると少し黒も入っているが、きれいな白髪、この娘を僕は知っている。いや、とても大切な存在だ。この娘の名前はーー


「あ、アス……」


ダメだ、声が出せない目を開けて意識を保つことさえ辛い。充満した煙りが、車内で激しさを増す熱が、全ての現象が僕に降りかかる。


そんな弱っている少年を見て、共に倒れているその娘は言葉を紡ぐ……


「どうしたの……いつもみたいに、たかがこれしき…… って、ならないの?そんなんじゃ、無欠完備の副会長は退職かな?」


その娘は、自身すら僕をかばって瀕死の状態なのに、励ますためか、それとも今際の際に語らいたのか、必死に言葉をかけてくれる。


なぜ?


油断なのか、それとも怠慢なのか、気づかなかった。昔の僕は、常に神経を尖らせてたばすだが…… 最近、どうにも調子が狂わされからな。


何に?


わからない。でも、走行中のバスを軽く横転させる威力を持つ兵器…… 兵士が用いる物だろう。陸軍…… 所属は、わからないがおそらく軍の関係だ。


それに…… 今までの僕は、数多の人間の恨みを買っているから、こんな状況に陥っても不思議はない。例え軍じゃなくても。


ーー 時間が経過するにつれ、次第にバスからオイルの漏れる匂いが…… じきに爆発する。


そう思った…… 思っただけで、体が思い通りに動かない。普段の自分からは、予想すらできない状況に戸惑う。


「あーあ、もう少し○○と話したかったな…… もう少し…… いや、もっともっと一緒にいたかったな。」


それまで、笑みを浮かべていたその娘から涙?が流れるのを見た。


泣かせてしまった。見たくなかった。どうして?


その娘には笑顔が一番似合う。いや、笑顔でいてほし

い存在だからだ。


そんな顔をさせている自分に対して、怒りの感情が湧く。それだけではない、他の4人の少女達を守れなかった……


それどころか、庇われたが故に死なせてしまっのだ。


バスが横転…… いや、襲撃され墜落する時に、この子たちが自らよりも僕を助けたのだ。覚えているからこそ、自分自身に憎しみが募ってしまう。


そんな時に、ある光景を思い出す。




ーー ーー とある学校の一室に、5人の少年少女たちが集い、話す。


「副会長、……さんの傍若無人ぶりには呆れてものが言えません。 英語しか話せかった人が、今は日本語でイヤミを言うに至ってます。なんとかしてください、日本語教えたのは副会長なんですから 」


「…… は相変わらず小さいんだよ! ワタシのどこがイヤミ!? アンタの方が、よっぽどデスガ! 」


「おお、さすが副会長っすね。…… さんに日本語教えてあげてたなんて、やっぱりジゴロ! そういうところがジゴロ! 」


「そもそも副会長って、そんな優しい人でした? 私の知るあなたは少なくとも人に、ものを教えることができるとは思えないんですが 」


「いい加減にしろ。貴様らがそこで云々ほざくのは勝手だが、予算の通し、各クラスの偏差値見直し、すべきことが多いと思うが? 」


「なはは〜! さすがだな○○!空気を読むことができてないな。それに初耳だぞ? …… に語学の授業をしてやってたのか、私も教えてほしいなぁ 」


「会長、あなたが副会長に教えてもらうのはちょっとずるいです。ただでさえ一歩リードしてるんですから 」


「ホントダヨ! カイチョウは、もう少し日本人らしく一歩引く感じを覚えて! 」


「でも、会長が副会長を変えたんですから、そこの時点でもう私達勝ち目薄いです 」


「そうね、むしろ変わりすぎ。少し前までは私達含めて、"劣化種風情が" って感じだったのに。柔らかくなった気がしますよ 」


「だってよ? ○○、よかったな! みんなから優しい認定受けてるぞ! 」


「先人達の残す言葉は実に面白い、今のこの状況…… まるで、踊るだけで一向に進む気配がない。会議がな 」


「こういところは、相変わらずですね。でもやっぱり、変わりましたよ副会長は 」


「「「変わる前は…… 怖かったよね〜 」」」


「みんな息ピッタシ! 私はこんなに団結できてる生徒会になれて嬉しっ!…… 1人、団結できてるのかわからんのがいるけど、チラッ 」


「フン、会長含めこれか…… 別に構わんがな、1人で充分に片付けられる。」


「「「「手伝ってあげる(ます、ゼ、よ)! 」」」」


「フッ、そうか 」


「「「「「笑った? …… 」」」」」


「おお! 今度は5人で息ピッタシだな! 私もお前がそんな風に笑うなんて、ちょっとビックリした 」


「笑ってない、嘲笑ったんだ 」


「どっちみち笑ってんじゃん! なはは〜 」


「はぁ、もういい 」



ーーーー なんで今、思い出してしまう?


もう4人は助からない。僕のせいで、僕の……


何が無欠完備だ! 何も守れていない…… 僕が守られてしまったんだ。


君たちの行く末が見たかった、君たちと一緒にいたかった、そんな弱さを身につけてしまったせいで、君らを殺してしまった…… 弱さを身につけてしまったせいで……





そんな自分に、さらにその娘は言葉をかける。いや、生かそうとしてくれている


「大丈夫、はぁはぁ…… あなたは生きるよ。こんなことで動じる副会長様じゃないでしょ?…… はぁはぁ 」


その娘も次第に息が荒くなってきていた。でも、それでもまだ、笑顔を作ろうとしている。


「私から最後の会長命令だ。いや、お願いかな……」


"最後"こんな弱気な、こんな諦めたような、そんな言葉を使う人間じゃないのに……


「生きて。 はぁはぁ ……生きて、幸せな道を見つけて。素敵なことを探して、最後に良かったなって思えるように感じて、そうしてくれないとみんな怒るよ? だから…… 生きて 」


その娘の言葉が出ききる前に、立つことができた。


だが言葉は出ない。出せばそこで、外に出る力を使ってしまうと思った。それくらいに、今の僕は弱っていると自覚している。


でもやっぱり自分の足は、身体は、外にじゃなくその娘に向かう。


だがーー


何か、みぞおちより上の部分に、重たい衝撃が襲ってきた。


「うぐっ! 」


その衝撃が身体を外へと押し出す。


それは、倒れてる娘が自分の手元にあったリュックを、こちらめがけて思いっきり投げてきたのだ。


いつもなら、こんなもので動じる僕じゃない。だけど、今の僕にはこれで充分だったようで、簡単に外へと押し出されてしまった。


「どーだ!これが無欠完備を唯一倒した、完全無欠の生徒会長だ!リュックひとつで、おまえを押し出しぞ!」


こんな状況で、こんなに混乱している中でも、この娘は自分を生かそうとしてくれている。僕以上に、深手を負ってるばすなのに、なんで…… そんな力があるんだ…… 会長。


そんな中、やっと言葉が出てくれた。


「お願いだ、はぁはぁ…… 余力があるなら一緒に…… 来てくれ 」


お願いだから…… 君にいなくなられると僕は……


「好きだよ。そして、生きたいな…… ○○と一緒にもっとたくさーー 」


一瞬だった。


言葉を聞きとることも、どんな表情かも、記憶させる暇もなく、バスは、いや状況はその場の感情や願いに左右されることなく、轟音と共に炎を舞わさせる。


僕は、目の前の光景を見つめることしかできなくて。


「…… ぁあ、…… しょう…… ちく…… しょう 」


なんで僕なんだ、生き残るべきは僕じゃない!


夢や希望に溢れていた、あの子達に生きていて欲しいんだ! これからも笑っていて欲しかったのに…… そう思えるように変えられたのに……


だが、結果を見ろ。現実を見ろ。


今のこの状況…… 僕ならこの状況を作り出した、"原因"を葬れる。だって、そうだろう?


僕を抑えることのできる人間がたった今、消えたんだ…… 消えたんだから。


どんなに変わっても、結局…… 僕は僕なんだ。こんな状況なのに、冷酷なまでに、脳は冷静を取り戻しつつあり、そして冷淡にこの後を考えることができる。


だから見ていてくれ。


違うな…… 見ないでいてくれ。君達と過ごして変わった僕が、また元に戻るのだ。たとえそれでも、必ず全てに報いを! 復讐を!!





いや、ダメだ。その過程は間違っている。





復讐では意味がない、僕がするべきはーーーー







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