過呼吸になった話
寄鍋一人
制御できない苦しみ
突然ですが、とある事情で過呼吸になりました。
1回、そこから間をおいて1回、連続して計2回の過呼吸になりました。
過呼吸について調べてみると、原因は精神的な負荷によるものが多いそうです。
例えば、陸上競技や水泳などです。長時間に渡るような競技は、身体への負荷とともに心への負荷も大きくなります。競技後、その負荷から、パニックや緊張で過呼吸になる可能性があります。
スポーツに限らずとも、人間関係や日常生活の中でストレスや不安を感じてしまう場合も、精神的な負荷によって過呼吸が起こりえます。
また、過呼吸は特に女性や若い人に多いということも、調べて分かったことです。
何らかの原因でパニック状態や緊張状態に陥り、過度の呼吸をしてしまいます。すると血液中は、酸素が増えて二酸化炭素が減っていきます。血中の炭酸ガス濃度の低下というわけです。
こういう異常を感じ取れば、脳は無意識に呼吸を増やそうとします。それに加え、過呼吸になった本人は死んでしまうかもしれないという不安を抱きます。
その不安がパニックや緊張を引き起こし、さらに呼吸を加速させます。
結果、過呼吸という症状が出てしまうのです。
簡単に言えば、「精神的負荷→パニック→過度の呼吸→死への不安→精神的負荷」と、負のスパイラルに陥るわけです。
過呼吸のメカニズムを調べ、自分なりに説明してみましたが、実際はそう簡単に対処できるものではありませんでした。
最初に書いたように、とある事情で合計2回、過呼吸になりました。
初期症状は調べた通り、精神的負荷から起きたパニック状態。そこから過度の呼吸を繰り返し、徐々に苦しくなっていきました。
他の人が過呼吸になったところを目の前で見たという経験もあったので、自分で何とか治せないかと、意識が薄れていく中でゆっくり大きな呼吸を試みました。
しかし発作は止まらず、次第に手足、顔、腹の順で痺れ始めます。
手の指は「親指、人差し指、中指」と「薬指、小指」との二つに分かれて固まりました。
すでに自分の力では立っていられなくなり、為す術なく床に倒れ込みます。
過度の呼吸により依然精神的な負荷は続き、意識は朦朧としていきました。それでも、家族に名前を呼ばれながら自ら必死で呼吸を続けます。
このとき家族が私の手足に触り、「冷たい」ということを言っていたので、血液の循環がうまくできていないと考えれば、これも過呼吸の症状だと思います。
途中、「呼吸が止まってしまったのではないか?」と思うことが何回もあり、「このまま死ぬのか」という不安も案の定、症例通りに抱きました。
調べてみると、併発する別の病気で命を落とす患者さんはいるそうですが、過呼吸が直接的な原因で死に至ることはないそうです。
「死ぬのではないか」という不安は杞憂だったわけですが、いざ自分が過呼吸になるとどうにも仕方のないことです。
私の場合、「深呼吸、深呼吸……」と自分に言い聞かせながら、しかし制御できないという苦しみがありました。
頭は冷静、でも身体が言うことを聞かない。まさにその状態だったわけです。
時間の経過とともに症状は軽くなり、30分ほどで過呼吸は止まりましたが、終わったころには激しい疲労感に駆られました。
運動した後の息切れを素早く小刻みに繰り返したような呼吸だったので、疲れるのも無理ありません。
さて、このように過呼吸の体験談を書いたのはなぜなのか。
それは過呼吸が、誰にでも起こりうる一種の病気だからです。
現代社会では年齢や性別にかかわらず、ストレスを溜めこんでいる人が多いと思います。
最近上司が。最近先輩が。親が。友だちが。
人間関係で悩みを抱える人も少なくないでしょう。
そんな人たちの蓄積された負の感情がある日突然暴発し、パニック状態になって過呼吸を発症してしまう。
何の前触れもなく、それは突然起こります。
今回は自分が過呼吸になったときの体験談でしたが、もし目の前で過呼吸になってしまった人が場合、紙袋などを口や鼻に当ててその人の吐いた息で二酸化炭素を補う「ペーパーバック法」があります。
ただし、外気も取り込めるように隙間を開けておかないと、今度は酸素が少なくなり二酸化炭素が多くなるため、注意が必要です。
また、患者に対して「大丈夫、安心して」など、落ち着かせるような声かけもしなくてはいけません。
誰もがなりうる病気は数えきれないほどあります。その中でも過呼吸はメディアで取り上げられることが少ないため、あまりメジャーではないように思います。
だから、過呼吸を知らない人には知ってほしい。知っている人は、改めて考えてほしい。
決して他人事と思わず、過呼吸について考えてみてください。
この2000字弱のエッセイが、みなさんが考えるきっかけにでもなれば幸いです。
過呼吸になった話 寄鍋一人 @nabeu
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