第13話
香絵にじっと見詰められ、道長、政次、兼良の三人は落ち着かない。
『『『うーん、仕事がやり難い。』』』
そこへ、とんとんとん、と扉を叩き、一人の男が入ってきた。
年は道長より少し上。政次と同じくらいだろうか。黒っぽくて手首と足首が
部屋へ一歩入り、一礼。
「得丸です。お呼びと聞きましたが。」
道長はすぐに立ち上がった。
「うむ。頼みたい事がある。」
大股で扉へ向かいながら、
「話は向こうで。」
得丸は「はっ。」と再度一礼し、部屋を出る道長へ道を譲って、その後に従った。
『『え?』』
『行かれるのですか?この雰囲気のこの部屋を放置して?』
『それはないですよぉ。居た堪れない・・・。』
という政務補佐二人の心の声は道長には届かない。いや、届いたかも知れない。うん、多分届いた。でも綺麗にスルーされた。
重臣達との話し合いに使う広い部屋へ入ると、得丸がしっかり扉を閉める。
その間に道長は椅子を二つ部屋の真ん中に向かい合わせた。一つに道長が座り、得丸にもう一つを勧める。得丸は「失礼します。」とそれに座った。
道長は自分の足に片肘を衝き、前屈みになって小声で話し始めた。得丸も道長に倣い、前屈みになって黙って聞く。
「これから話す事は極秘事項だ。私と、政次、兼良しか知らない。よいか。」
得丸が頷く。
「香絵はこの国の姫ではないと思われる。香絵の母国を探して欲しい。香絵は記憶を失くしている。手掛かりは、私が香絵を見付けた時に身に着けていた衣のみ。香絵の母国と親を見付け、情勢を探る。香絵が記憶を失くした理由が解かると、
道長が得丸の瞳をじっと見る。
「出来るか?」
得丸は間を置くことなく答える。
「はい。しかし、どれほどの時間が掛かるかは、判りかねます。」
「よい。ではなるべく早く発ってくれ。」
「はっ。これからすぐに。」
道長は頷くと、立ち上がり、扉へ向かった。
「他に手掛かりが見付かった時は、和馬を出す。」
「はっ。」
得丸は椅子から降り、片膝を衝いて部屋を出て行く道長を見送った。
執務の間へ戻る途中、道長は思い出した。香絵の衣は道長の部屋にある、と言い忘れた。
『ま、いいか。』
得丸は、香絵の衣の
一年のほとんどを国外で過ごしているのに、得丸は国内の事を何でも知っている。彼とはまったく他人の、本人しか知り得ないはずの個人的な事まで。
きっと香絵の事も道長に聞く前から知っていたに違いなかった。
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