面影

勝利だギューちゃん

第1話

人は恋をする。

そして、多くは玉砕する・・・

早かれ、遅かれ・・・


そして、いつしかセピア色に色褪せる・・・


僕は昔、好きな人がいた・・・

もう、遠い過去の話・・・

高校の頃のクラスメイトの女の子・・・

彼女との思い出は、殆どない・・・


正直、あまり美人ではなかったと思う・・・

でも、とても明るい子だった・・・

そこに惹かれたと思う。


だが、その想いを伝えることなく、卒業した・・・

以来、一度も会っていない・・・


そして、いつしかセピア色になってしまった・・・


「もし、想いを伝えていたら・・・」

そう考えた事がないと言えば、ウソになる。


でも、今は未練も悔いもない・・・

これは、本当だ・・・


今?

今はぼっちだ・・・

いや、今「も」だろう・・・

彼女はもちろん、友達もいない・・・

リアルバーチャル共に、ぼっち・・・


僕は敵を作りやすい。

普通にしてても、敵を作る・・・

これは、特技を通り越して、一種の才能だろう・・・

もう笑うしかない・・・


もともと、社会生活には不適格なのだろう・・・

そして、逃げるように、山奥は移住した・・・


行き先は、誰にも知らせていない・・・


それから、数十年の時が経った・・・

僕はすっかり、おじいさんとなった。


ここへ来てからは、予想はしていたものの、甘くはなかった。

ただ、都会にいた頃の事を思えば、乗り越えられた。


今も独身だが、後悔はない・・・


ある日、買いだしに出かけた。

この辺りは、駅前に行かないと、物は買えない。

宅配サービスもあるが、健康のために歩く事にしている。


駅真に来て、ひとりの女性に声を掛けられた。

大学生か・・・新社会人か・・・

そのくらいだろう・・・

「あの、すいません」

「何ですか?」

「この辺りに、旅館かなにかありませんか?」

旅行客なのか・・・この辺りに宿泊施設はない。

それを伝えると、女性は困った顔をした。


「よろしかったら、家に泊まりませんか?」

「よろしいんですか?ご迷惑じゃ・・・」

「構いませんよ。但し、一晩だけですけど・・・」

「何もしませんか?」

「しません」


そういって、女性を自宅に泊める事にした。

自宅に、他人を招くのは、初めてだった・・・


「適当にくつろいでください」

女性に声をかける・・・

「ありがとうございます」


「素敵な場所ですね」

「何もありませんけどね」

女性とのやりとりを交わす。


「昔から、ここにお住まいなんですか?」

「いえ、数十年前に、○○市から、移住してきました」

「きぐうですね。私はそこから来たのです」

「そうですか・・・」

僕は、女性をもてなす料理を作りながら、会話をしている。

人とこんなに会話するのは、久しぶりだ・・・


「こちらでは、ご旅行で・・・」

あまり、人のプライベートには、首をつっこむべきではないだろう。

でも、場をもたすためには、話すしかなかった。

「室は、母が亡くなりまして・・・」

「お母さんが?」

「小さい頃に、父と離婚しまして、母が女手一つで育てくれました。」

「はい・・・」

「正直、美人ではなかったですが、いつも明るくて・・・尊敬していました」

晩御飯の準備ができた。

それを、テーブルに並べる・・・


「美味しそうですね」

「たいしたものでは、ありませんけどね」

僕は、少し照れくさく言った・・・


「ここは、母が生前、『行ってみたい』と言っていた場所なんです。

それで、私が代わりに・・・」

「そうなんですか・・・お母さん想いなんですね」

「・・・いえ・・・」


お風呂を沸かした。

女性が入浴中に、布団の準備をする。


当たり前だが、別々だ・・・

その日は、女性とは話すことはなかった・・・


よく朝、物音で目が覚めた。

ご飯とみそ汁のいい匂いがしてくる・・・


女性が、朝食の準備をしていた。

僕に気が付いた女性は、

「すいません・・・勝手に・・・

「構いませんよ」

「泊めていただいたお礼に、朝食を作りました。

料理だけは、自信があるんです。

そう言うと、女性はテーブルに、手料理を並べて行く。


「いただきます」

御馳走になる。

とても、美味い・・・


僕は女性に訪ねた。

「今日はこれからどちらへ?」

「昼前においとまします。用事も済みましたので・・・」

「用事?」

「いえ・・・何でもないです」

女性は、笑うだけだった。

その笑顔に、懐かしさを感じた・・・


昼前に女性が、帰ることとなる。

送ろうと思ったが、僕の気持を理解してくれているのか、

1人で大丈夫と、言ってくれた・・・


玄関先で、女性を見送る。

「ありがとうございました。お元気で」

「そちらさんも、体に気をつけてください」

手を振って、女性は去って行った・・・


女性の姿が見えなくなると、僕はドアを閉めた。


しばらくして、その女性は男性宅を見つめ、呟いた。

「元気にしてたよ。お母さんの初恋の人・・・

お母さんが好きになったのが、わかったよ・・・」

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面影 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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