月を頂く塔、休息3

 サヨはひとしきりしくしくと泣いていたが、少しすると落ち着いてきた。ユキは、サヨの様子を伺いながらそっと声をかけた。


「サヨちゃん、エトランゼって、さっきの部屋で椅子に座ってた女の人のこと?」


 サヨはまだときどきしゃっくりをしていたが、こくんと小さく頷いた。


「ジュナが、ひめさまって呼んでたよな」


 ジウが独り言を言うと、サヨが涙声のままジウに答えた。


「ジュナは、ずっと、ひめさまって呼んでるの。エトランゼは、初めて会ったとき、わたしに、自分はエトランゼだって言ったの。だから、わたしはエトランゼって呼んでるの。あ、でも、守護者たちには、エトランゼじゃ伝わらなかったの。女王って言わなきゃ解らないみたいだった」


 アヤが「イーシャ姫じゃないのか」と呟いた。

 確かに、女王ことエトランゼは、ジウとアヤが夢で見たイーシャ姫に似ていた。だが、イーシャ姫は、エトランゼよりもサヨに似ているようにジウには思えた。イーシャ姫は、今のサヨより大人びてはいたが。


「あ、そうだ、アヤ君。これ」


 ジウはふと、自分が抱えていた記録書を思い出してアヤに手渡した。


「これ……いつの間に……さっきの部屋にあったのか?」


 アヤはジウの手から記録書を受け取った。満月の内部らしき部屋にいた時は、サヨとエトランゼに気を取られて、記録書の存在に気付かなかったらしい。


「俺、一緒に下に置いてあった箱も持ってきちまった」

 ジウは箱を皆に見えるように置いて「何だろうなコレ」と言った。

 サヨがハッと顔を上げた。


「もしかして、エトランゼのすぐ横に置いてあったもの?」

「お、おお。やっぱりマズかったよな」


 ジウは箱を開けようとしていた手を、思わず止めた。


「あ、どうだろう、わからない。でも、あなたたちが持っていたものと同じものだと思う」

「え?」


 アヤが、サヨの言葉に素早く反応した。


「ジウ、開けてくれ」

「あ、ああ」


 アヤに急かされて、ジウはふたを開けた。

 中には箱にちょうどぴったり収まる大きさの紙が、びっしりと入っていた。

 アヤは慎重に数枚の紙を取り出した。そして、一枚一枚をなめるように見てから、ジウの顔を見て言った。


「これ、あの記録書の原稿だ」

「げん……?」

「原稿だよ! 記録書に、王に献上したものと同じ内容を書いたものだって記述があったろうが! この紙の束は、王に献上された方のものだってこと」

「はぁー」


 ジウは更に間の抜けた声を出した。原稿があったと言われても、つまり手元にあるものと同じことが書いてある紙が、もう一式増えたというだけのこと……としかジウには思えない。アヤにとっては大事件なようだが。


「やっぱりここは、大昔のお城だったってことかな?」


 ユキが言うと、アヤは「そうだよな」と嬉しそうに言った。目が輝いている。

ジウは、アヤが記録書にかかわることになると人が変わることを思い出して、心の中でため息をついた。


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