歯車は止まらない

扉の中の闇

 勢い良く飛び出した四人は、あの黒ずくめのカラス男を追いかけていたはずだった。

 ユキが男の背に追い付いたと思って伸ばした手は、冷たく固く平らなものに当たった。

 記録書に描かれていた扉だ。

 ユキは後ろの三人を気遣い、急いで取っ手を引いた。

 扉はまるで、断末魔の悲鳴のような嫌な音を立てて開いた。

 一瞬、躊躇したが、背後からシノの「早く早く早く早く早く」という騒がしい声がしたと同時、思いきり突き飛ばされて、中に転げて入ってしまった。

 四人はそれぞれ、「イテ」とか「ぐう」とか情けない声を上げながら、真っ暗闇の中に転がった。

 どうやらジウの腕を引いて走っていたシノがつまずき、ジウをひっぱったままアヤにぶつかり、三人まとめてユキを押し潰す形になったようだ。

「ごめん、ごめんごめん、大丈夫?」

 というシノの声がして、三人がユキの上から下りた。

 ユキは、自分の背が軽くなったので、三人が下りたのだと解り、そっと体を起こしたが、周囲はとびきり濃い墨の中に潜っているかと思うほどの黒一面で、心なしか息苦しかった。

 四人が転がり込んだ扉も閉じてしまっているようで、振り向いてみても真っ暗だった。

 自分の身体が、思った通りに動いているという自信も失いそうな闇の中で、ユキは友人三人の気配だけを感じていた。

 ここはどれほどの広さなのだろう。

 皆、どんな表情をしているのだろう。

 何か、この中にあるのだろうか。

 解らないことだらけで、さすがに少し不安になった時。急に目の前にぼんやりとした、橙色の光が灯った。

 数秒、少しだけ眩しくて目を細めたが、段々目が慣れてくると、光の正体が、いつもシノが首から下げていた、色とりどりの硝子で出来た円筒形の装飾品であることに気付いた。

「わ、なんだこれ!」

 シノの驚く顔が見えた。

 光が段々大きくなっているのだ。

 照らされる範囲が広くなって、驚いて絶句しているアヤと、ジウの顔も見えた。

 自分の手足もすっかり見えるようになった時、シノが立ち上がった。

 驚いたように見開かれた大きなシノの瞳が、赤銅色に光ったと思った瞬間、ユキは背後が明るくなるのを感じた。

 振り向いて見ると、ずうっと奥まで続く、長い通路が見えた。

 左右の壁の天井近くに、等間隔に並んだ球体が、シノの胸元の装飾品と同じ橙色に光っている。しかも、奥に向かっていくつもいくつもあるらしいそれは、手前から順に一つ、また一つと灯っていく。

 ユキは視力に自信があった。友人達より遠くのものを見ることができたし、動体視力だってそれなりにあると自負している。

 だが、そんなユキでも、霞んで見えないほど通路は奥深く続いていた。

「何だ……ここ……」

 ジウが呆然と呟きながら立ち上がった。


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