「向こう側」
アヤは椅子から腰を浮かせ、ユキの手から本を受け取った。
「この――」
パラパラと頁を進めていく。塔の設計図の頁を通りすぎて、更に先を開くと、皆に見えるように広げて食卓の中央に置いた。
「ここを見てくれ。これは、街の全景だと思われる図だ」
アヤが指したところは、見開き二頁を使って大きな図が描かれていた。
中央の綴じ代になって見にくい辺りに、満月の塔が描かれ、周囲には大小様々の長方形が、塔を中心にした円を描くように配置されている。
一際大きな長方形が三つほどあり、位置から考えて、一つは学院、一つは王立研究所、もう一つは食料工場だろうとジウは思った。
食料工場は、塔から各家々に配られている食品を作っている場所だ。皆、この食べ物をそれぞれに料理するなどして食べている。この配給よりももっと欲しいという者は、各々個人的に食料を作り、売っている者から買わねばならない。結果として、平民の食事は質素なものに、貴族の食事は豪華なものになっている。
外周に向かうにつれ、長方形の形は小さく、多くなりなり、そのさらに外周には、木を簡略化したのだろう三角形の図が描かれている。硝子森だ。
その外側、砂嵐が吹き荒れている場所にはほとんど何も描かれていない。だが、右の頁の下の方に、一つだけ、細長い長方形が描かれている。その下に何か文字が書かれているが、もちろん古語で、ジウには読めなかった。
「これ、何だ?」
ジウは呟きながら、学院や研究所などの位置から、この謎の長方形の位置を予測してみようとした。
同時、ユキの指が、塔、学院、謎の長方形という順に図をなぞり、ユキが言った。
「ここの近くにあることになっているみたいだけど」
「え、ホント?」
ジウの予測も同じだった。この長方形はシノの家のすぐ近くになるようだ。
「何コレ? どういうこと? 砂嵐しかないよ?」
「あの嵐の中に、何か建物があるってこと?」
ユキが上の空で言った。
アヤは無言で次の頁を開いた。
そこには、何やら扉のような図と、先程の長方形の断面図と思われる図があった。隣の頁には満月の塔の、先程より更に小さな断面図があり、こちらは地下まで描かれている。更に地下から細長い道のようなものが描かれ、それは街の真下を真っ直ぐに突き抜け、先の頁の謎の長方形の途中に繋がっていた。
そして、それぞれにやはりジウには読めない古語の説明文が添えられている。
「何これ?」
「これでいくと、この変な建物の途中、穴みたいなのが開いてて、それと塔が地面の下で繋がってるってことになるのかな?」
シノの驚いた声の後、ユキが冷静に言った。
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