王様と魔術の時代

 ジウは俯きかけていた顔を上げた。真剣なアヤの顔が見えた。

「むしろ、ここまで新品同様に美しいことこそ『王歴時代』のものだという証拠になる」

「王歴時代?」

 ユキが問うと、アヤは本の中の文章を指差しながら答えた。

「この、ここに出てきてる『王歴』という言葉。これは、その年代の呼び名のようなものだと考えられている」

「年代の呼び名?」

「シノ、お前、生年月日言ってみろ」

「九百八十年、天の月、十八日」

 シノがきょとんとしたまま、何故か自信無さげに言った。

「俺達は年を数えるとき、数の前に言葉をつけないだろ」

 アヤが言うと、シノはもう一度口の中で自分の生年月日を呟いてから「ああ、うん」と目を丸くして答えた。

「昔の人々は、この『王歴』のように、○○何年って、数の前に言葉をつけてたようなんだ。それは恐らく、それぞれの年代に付けられた呼び名だと考えられている。この『王歴』ってのは、王が統治していた間の年代、時代を表しているんだ」

「ん? オウサマって何者? さっき千ナントカって言ってなかった? 千年も生きてったの?」

 シノ問いに、ジウは思わず「ンなワケあるか」と突っ込んだ。

「王様ってのは役職だよ。先生とかそんなんだ」

 ジウは呆れながら言った。歴史の授業で教わることだ。ジウも勉強は好きではないが、シノは興味のないこと以外は本当に頭に残らないらしい。

「代替わりして、何人も何人も、たくさんの人達が『王様』をやったんじゃない?」

 ユキが付け足すと、アヤが頷いた。

「ユキの言うとおりだ。で、話を戻すが『王歴』の他に、今まで確認できた年代は『閉鎖歴』ってのがあるんだ。一番新しいのが閉鎖歴二百十三年って表記で、少なくとも二百十三年間はそう呼ばれてた時代があったらしい」

 アヤはここで姿勢を正した。

「閉鎖歴時代は、王歴時代より新しいということは解っていたんだが、王歴時代が何年まで続いて、いつを境に閉鎖歴になったのか、あるいは王歴と閉鎖歴の間に他の時代があったのか、その辺が謎だった。でも、ここ――」

 アヤは少し早口になりながら、本のさきほど読み上げた所の次の行を指した。

「カゴミヤ計画発動により、王歴一〇七八年、天の月、七日をもって暦を変え、同年天の月八日より、閉鎖歴元年とする」

 アヤが読み上げると、ユキは真剣な表情でアヤをまっすぐ見つめて言った。

「つまり、王立研究所がずっと調べても解らなかった謎が、解けちゃったってことだね」

「ああ」

 ユキに答えるアヤの顔は、少し頬が上気していて、しかしどこか不安そうな、複雑な表情だった。

「王歴と呼ばれた時代は、一〇七八年続き、閉鎖歴と呼ばれた時代と連続していたってことが解ったワケだ」

「何かよく解んないけど、大発見ってこと? スゲーじゃん!」

 シノがまた場違いな明るい声で言った。

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