籠の中の小鳥たち
籠の中の小鳥たち
――絵本じゃないかよ。
背後から聞こえる友人の朗読を聞いて、ジウはそう思った。
友人が朗読しているのは「お姫さまとくろいとり」というこの街に生きる者なら、知らない者はいないというくらい定番の絵本だ。
この街ができたときの話――神話のようなもので、つまり、おとぎ話だ。
完全にバカにしている。
苛立ちを抑えるように、ジウは視線を泳がせた。
爬虫類じみたライトグリーンの瞳が、気怠そうに動く。
闇色の天上を、満月の塔のぼんやりとした光が照らしている。
視界の大部分を支配する巨大な建造物――満月の塔。先ほどの絵本の舞台でもあるそれは、街の中央に高々とそびえ立ち、四本の大樹に守られ、街の全てを支配している。
ジウ達がいる学院は、満月の塔の近くにある為、塔の頂上の「満月」と呼ばれる、光と熱を発する大きな球体は、首が痛くなるほど見上げないと見えない。
見えないが、ジウはこの「満月」が嫌いだった。
何だか酷く憂鬱になった。
「絵本じゃないかよ」
結局、ジウは友人の朗読を遮るように声を発し、振り向いた。
学院の屋上の転落防止用の柵の手前。「これ以上外側に行かないように」という目印で設置された石段の上に立っているジウは、自然と友人達を見下ろす形になった。
振り向いた先には、3人の友人が座って、ジウの思ったとおり絵本を開いていた。
「ああ」
絵本を持っている青年――アヤが、鋭い目付きでジウを見上げ、全く悪びれる様子もなく言った。
「ああって、アヤ君、あのね」
「まあまあ、ジウが、ちゃちゃっと読める簡単で面白い本って言ったから、アヤが探してきてくれたんでしょ」
絵本を朗読していた声が言う。妙に明るく、緊張感に欠ける声。お調子者のシノだ。
「だからってなあ……」
「読書感想文の提出、サボるジウが悪いんでしょ」
再度ジウの抗議を遮ったのは、落ち着き払った身なりの良い青年――ユキだった。
ジウは、顔がひきつるのを自覚した。
石段から降りて、アヤの前にしゃがみ込む。
「アヤ君。バカにしてんでしょ」
「ああ」
アヤの顔を覗き込んで、低い声音で言ったが、アヤは眉一つ動かさずさらりと答えた。怒りに任せて叫んでやろうかとジウが思った瞬間、すぐ隣の時計台の鐘が鳴った。
鐘の音を聞き、アヤ、シノ、ユキがほぼ同時に立ち上がる。
休憩時間の終わりを知らせる鐘だ。次の始業の鐘が鳴る前に教室へ戻り、次の授業の準備をしなくてはならない。
「行くよー! ジウー!」
まだ動かずにいたジウに、屋上から室内への入り口に立ったシノが声を掛けた。
ジウが舌打ちをして追いかけると、ドアをくぐった所で、ユキが絵本を差し出してきた。
「読んどく?」
ニヤニヤ笑っている。
「いらねーよ!」
思い切り歯を剥いて威嚇すると、ユキは声に出して笑いながら、絵本を引っ込めた。
四人は軽口を叩き合いながら階段を降りていく。
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