弟-1 妹+1

クロタ

プロローグ

寂寥のワンルーム。そして新天地への期待

 突然の異動辞令を受けて、久しぶりに実家に帰れることになった。

「四年目にしてやっとか……」

 今朝ぶりの再会となった部屋のドアの鍵を開け、中へと入り、溜息と共に絞り出すように呟く。言い終わると同時に、背中から、金属製のドアが閉まる時特有のやたら大きな騒音が響いた。

「ふう……」

 それほど物を詰め込んでいるつもりも無いのに何故かやたらと重い手提げのビジネスバッグを、やや乱暴に足元へ放る。俺が三年もの長きに渡って根城としていた小さなワンルームは、落ちかけた日の光が窓から射し込み、薄紫色に染まっていた。

「まあ、いざここを離れるとなると、なんだかんだ少し寂しい気もするな」

 硬いベッドに腰掛けて、軽く部屋の中を見渡す。

 普通の声で話していても廊下まで丸聞こえなほどに薄い壁。独房を彷彿とさせる形状のドア。……そして共同の風呂トイレ。格安の社員寮で仕方無いとはいえ、最初は面食らったものだ。

 しかし、慣れは恐ろしいというか住めば都というか。今ではもはや若干の寂寥感すら感じ始めているから、人間というものは分からない。

「寮の先輩たちにも、近々挨拶しなきゃな」

 それなりの速度で過ぎ去っていった三年間を、ざっと振り返って、適当な笑みで雑に片をつけて、再び立ち上がる。

「さて。地元採用に飛びついて、入社式で裏切りの東京本社勤務を言い渡されて早三年……ついにこの時が来たか」

 来月から始まる、懐かしくも新たな地での日々に、早くも胸を踊らせている自分がいるのを感じていた。

「帰ろう――沖縄へ」

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