幕間 どうでもいいけど思ったよりけっこう大事

 この家の主人である俺。裕太郎ゆうたろうはトイレの帰りを機嫌よく鼻歌を歌いながら歩いていた。


「フッフーン、フフンー……どわっ?!」

「ご主人様、静かにして頂けますか?ご主人様の鼻歌は機嫌が良いほど音量が大きくなるので。今のなんか、今までにないくらいの声量でしたよ!!すぐそこの部屋で、せつ様と咲良さくら様がお話しなさってるんですから!!」


 角を曲がるとすぐ目の前にあおいの顔があった。


「いきなり現れんなよ!お前の顔、熱苦あつくるしいんだよ!機嫌よくなるのも当然だろう。許嫁との約束の前までに、お前が連れて来たせつってやつが来てくれたんだから。ほんと良かった。」

「それは……ありがとうございます。

 あぁ、伝えることがあったんです。陽一様さくらさまのおじさまがお帰りになるそうです。すでに、玄関へとお連れしてているようです。私も後で向かいます。」

「分かった。すぐに行く。」


 蒼は、ここ最近やってきた者だ。男のくせに細かいところに気がつくし、口調も丁寧だ。ただ、こいつの欠点は体がすごく男らしいというところだ……せつのような細いからだなら似合うのだろうが、こいつがすると不気味ぶきみさがある。


 まぁ、許嫁の咲良とかいうやつもなかなかの美人だったし、跡継ぎの嫁として問題ない。

 形だけだけどな。使い勝手のいい駒として使ってやろう。これで、周りのうるさい奴らも黙るだろう。


 そう思いながら、玄関へと向かっていると俺の目の前に黒い影が現れ体の中に入っていった。


 ーお前は、本当に自分の欲望に素直だな。本体を復活させる間、お前を依り代にしようー


 そう一瞬聞こえた気がした………


 ───


 私、蒼はこの藤本ふじもと家の裕太郎様に仕えるものでございます。

 正確には、私はせつ様の手伝いをするためこの家に潜り込んでいるのですがね……

 この家のご主人様は、クソ野郎です。

 何もかも適当で、行き当たりばったり。唯一彼が思いついたことで、マシだったのは許嫁の件でしょうかね。彼の頭でよく思いついた、拍手を送りたいくらいです。

 クソ野郎には、変わりないですが。


 本当は、せつ様を利用しようだなんて人に本当は使えたくないのですが、せつ様がどうしてもというので。

 さて、読者の皆様に私の自己紹介を。

 名前:藤木 ふじきあおい

 年齢:34歳

 好きなかた:せつ様

 尊敬してるかた:せつ様

 得意なこと:柔道

 悩み:体が男らしいこと

 よく言われる言葉:のほうのかたですか?


 私はそっちでもあっちでもありません。1人の普通の男性です。ここの所よろしくお願いします。

 柔道は昔少しかじっただけですが。けっこう得意な方だと思いますね。


 ドンッ

 背中に誰かぶつかりました。後ろを振り向き、下を見ると咲良様が私にぶつかっていました。私としたことが、ぼーっとして玄関へと向かう途中で立ち止まっていたようです。


「あ、ごめんなさい。」


 咲良様は、目を赤くして私に謝ってきました。


「いえいえ、大丈夫ですよ。どうかなさいましたか?」


 咲良様が走ってきた方向は、せつ様のお部屋の方向です。これは、何かあったなと思い聞いてみましたが、咲良様は、首を振るだけ。


「なんでも、ありません。少し気分が悪くなって……。失礼します。」


 そう言って咲良様は、走り去って行きました。

 うーん、心配ですね。せつ様ならなにかしかねません。余計なことを言う時がありますからね。

 少し様子を見に行きましょうか……






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る