第28話 トーエイの覚書 六月二十五日

 『三』だ。

 この数字をよく覚えておいてくれよ? 今日の最重要キーワードだ。



 まず、三つの誤解をとくとしよう。


 一つ目。オレっちはトカゲじゃない! ヤモリ! いいか? 忘れるなよ? 『ヤ』、『モ』、『リ』でヤモリだ! 最近の小学生はトカゲとヤモリの区別もつかないのか?

 『イヤッ、ナオちゃんの肩にいるのトカゲ?キモッ……』って、トカゲとヤモリの違いも分からないの? キモッって感じ。


 そして二つ目。オレっちが天井やカベを歩けるのは吸盤があるとかじゃないぞ? カエルじゃねぇんだから。カエルは両生類。オレっちは、は虫類!

 難しいコト言っても分からないだろうから簡単に説明するが、分子間引力って言う力で自由自在に天井やカベを歩けるんだ。引力なのよ、引力。だから、蟲にも乗れたってワケ。

 だって見えるってコトは、そこに何かがあるってコトだろ? 何かがあればオレっちは引力でくっつける! テフロンだけは苦手だけどな。


 残り三つ目。オレっち、大きいモノを食べたからアゴがはずれたんじゃないぞ! ナオ様の目の前でカナブンにかじりついてアゴがはずれたのは、カナブンが固かったからだ! どれだけ大きくても柔らかければ大丈夫! ホントか!?


 いや……オレっちもまさか、あんな蟲が食べれるとは思ってなかったけどな。

 昔、ジッチャンが食べたって話? オレっちウソつきました。あの時は大福の話を信じてなかったからな。

 それにしても、あのとろける様な舌ざわりと芳醇な香り。濃厚な甘みで、それでいてしつこくなく、深みのあるまろやかさが口いっぱいに広がった至福のひと時。こんなご馳走にありつけるヤモリって、世界広しと言えどもオレっちだけじゃね?



 美味しかったなぁ……



 さぁ、次の『三』に行ってみよう。

 オレっち本日、三回死ぬかと思いました。

 原因は全部、鈴木。


 まず一回目。オレっち、天井から落ちるくらいじゃビクともしないんだけどな。その倍近い高さから落ちるのには、流石のオレっちもキモを冷やしたね。鈴木の頭の中は一体どうなってるんだ? あんな脱出方法、考えるだけならともかく実行するヤツいるか? いやいや、考えるだけでもおかしいわ! これでオレっち賽の河原まで行ったね。


 二回目。プールに落ちた後、鈴木のヤツ、誰にも何の断りもなく底までもぐったんだよ。オレっち泳げないワケじゃないけど、もぐるってのはナシでしょ。流石に必死でプールに浮いたわ。この時はオレっち、三途の川の渡し守に六文銭を渡しちまったよ。


 んでもって、最悪の三回目。オレっちもう彼岸の一歩手前。

 プールに浮いたオレっち。ヘタクソだけどプールサイドまで懸命に泳いでいたワケですよ。それなのに、あのペンギン、あろうコトかもう一度戻って来て、オレを連れてプールから学校の外へ脱出しやがった。


 聞いてるだけだと、鈴木がスゴイいいヤツに聞こえるだろ? 実は違う。鈴木はプールに浮いているオレっちをくわえて、もう一度水中へ。水中だけなら百歩ゆずって許す。


 だが、くわえるな!!



 ああ、オレっちペンギンに食われちゃうんだ……って死を覚悟したわ!



 いっそのコト、鈴木の黄色い髪をつかんだまま気絶している大福のように、オレっちの意識も飛んでくれたらよかったのに。



「ナオ様の宝物を見つけたら、オレっちセンパイとして、後輩の鈴木のコトを少しは好きになってやってもいいぞ!」



 って言ったけど、アイツ、結局ナオ様の宝物見つけてないし。


 やっぱり、鳥キライ……


 鈴木キライ……

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