第24話 ゲフッ!!
両手をブランと下におろして、操り人形のように、首を前に折る茂クン。その左肩から、細い紐みたいなモノでつながった、気持ち悪い何かが浮かんでいる。
これが……蟲なの?
ダンゴムシみたいだけど、小さな羽が何対もあって、足がカニみたいに長い。アタシが想像していた虫とは全然違う、想像もつかない形をした蟲。アタシの身長よりも大きいし……
「鈴木くんが、蟲を引きずり出した……だと? ナオにも見えているのか? 他の連中は……よしっ、見えてないようだな」
アルは鈴木くんの頭の上で、教室の中をグルッと見渡す。
いつの間にかクラスの半分以上の子たちが教室にいた。泉チャンもその中にいる。
アタシは少し下を向いて、クラスのみんなから顔を背けた。みんなの視線が忍びない。
アルの話だと、みんなにはこの気持ち悪い蟲が見えてないんでしょ? アタシ、何してると思われてるんだろう? ハムスターとペンギン引き連れて。
「鈴木くん、倒せるか?」
アルの言葉が終わる前に鈴木くんは高々と飛び上がった。そして、羽を刃のように横一文字に振った。
ブン!
当たったと思った鈴木くんの羽はむなしく宙を切って、風に吹かれた霧のように、蟲の姿はほんの少し揺れただけだった。
「師匠! ダメです! 通信教育で習った中国拳法――
何度も何度も羽を振り回す鈴木くん。だけど、ブンブンと乾いた音がなるだけで、一発たりとも蟲に当たるコトはなかった。
「この気持ち悪いのどうするの、アル? キャッ」
蟲が長い足をパキパキと大きく開いてアタシに飛びかかってきた。鈴木くんが必死に蟲を振り払おうとしてるけど、蟲はオバケのように鈴木くんの体をすり抜けて、アタシを長い足で包み込……
「ナオ様、危ない!」
頭を抱えてうずくまるアタシの胸のポケットから、トーエイが蟲に向かって飛びかかる。
ダメだよ、トーエイ。見てなかったの? すり抜けちゃうから。
「よっ、と」
えぇ!? 何でトーエイはすり抜けないの?
トーエイは蟲の、たぶん頭じゃないかなと思われる部分にしがみついた。しかも、蟲の上で動き回ってるし。
「オイ、大福! 乗ったはいいが、どうすりゃぁいいんだ、コレ?」
トーエイは宙に浮かぶ気持ち悪い蟲の上から、鈴木くんの頭の上のアルを見おろした。アルはポカンと大きな口を開けたまま、トーエイと大きな蟲を呆然と見上げる。
「知るか! 好きにしろ! そもそも、鈴木くんの攻撃がまったく当たらないのに、何でキサマはそんなのに乗っていられるんだ?」
アルは泡を食って、両手でホッペをかきむしった。きっと、頭をかきたかったんだろうな。アルの手、短いから。
トーエイは蟲の上を自由気ままに歩き回り、いきなり立ち止まり、何を思ったのか目いっぱい大きな口を開けて足元の蟲を見おろした。
チョロチョロッと赤い舌をのぞかせるトーエイ。
「トーエイ、まさか……ヤメて……ムリだよ、そんな大きな蟲。またアゴはずれちゃう!」
アタシが止めるのも聞かずに、トーエイは大きな蟲の背中にかぶりついた。
ダメ……アゴが…………えぇ~!?
まるでケムリのように、トーエイの小さな口の中に吸い込まれていく大きな蟲。
ズルン!!
そんなコトってあるの!? トーエイ、蟲食べちゃった。それ……食べていいモノ?
トーエイは足場をなくして、アタシの足元にポテッと落っこちた。
開いた口がふさがらなかった。アタシもアルも、鈴木くんも、目を点にして、床の上をチョロロと動くトーエイを見ていた。
蟲がいなくなった茂クンは、ガクッと両ヒザを折って、その場にへたり込んだ。
トーエイが近くの机にはい上がり、アタシの体にヒシッと飛び移ってくる。
「ナオ様ぁ! 思わず食べちゃったけど、オレっち腹こわしたりしませんよね? スゴく美味しかったんですけど」
トーエイはあたふたして、アタシの肩の上をグルグル走り回った。
美味しかったんだ。よく見ると、トーエイのお腹はパンパンに膨らんでいた。そりゃぁそうだよね。あんなに大きな蟲、食べちゃったんだから。むしろ、それくらいしか膨らんでいないお腹にビックリだよ。
「一体、何がどうなった!? 蟲を食べただと!? そんなバカな話……」
ゲフッ!!
視線を宙に泳がせてしきりに首をひねりながら、ブツブツと独り言を口にするアル。それをかき消すような、トーエイの大きなゲップ。もうっ、トーエイお行儀が悪い。
鈴木くんは目をキラキラと輝かせて、アタシの肩の上で満足そうにくつろぐトーエイに尊敬と羨望の眼差しを向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます