絵の城

ひじきの煮物

絵の城

どこかにある

とある国のおはなし。


その国のお姫様は

体が弱く、

お城を出たことが

ありませんでした。


あるとき、王様は

旅の絵描きを城に招いて

お姫様に絵を描くように命じました。


絵描きはキャンバスに向かい、

美しい花の絵を

描きはじめました。


すると、

お姫様は、

「そんな小さな絵じゃ

つまらないわ。

ここに描いて」

と壁を指差しました。


絵描きは戸惑いながらも

壁に絵を描き始めました。


描き始めると、今度は、

お姫様は絵のことよりも

旅の話を聞きたがりました。


「それはどんな色?

どんなに大きいの?」


見たことない風景を

想像しようと

絵描きに一生懸命

問いかけます。


そこで絵描きは

自分が旅で見た

風景を描き始めました。


大きな木に止まる

たくさんの鳥の絵


不思議なお祭りの絵


たくさんの水がある

"海"というものの絵


壁いっぱいに

広がる風景に

お姫様はたいそう

喜びました。


絵を描き終えた絵描きは

また旅へ向かうことになりました。

寂しそうに見送るお姫様に

「また風景を見せに戻ります」と

約束して。


絵描きは旅から戻るたびに

お城の壁に絵を描いてゆきました。


そしてお城の壁は、たくさんの絵で埋まり

いつしか「絵の城」と呼ばれるように

なりました。


しかし幾年かが過ぎた

ある年のこと。


何度目かの旅から

絵描きが戻ると

お城は暗く

静まり返っていました。


お城の家来が

言いました。


「姫様が

亡くなった」


絵描きは

主のいなくなった

部屋を訪れ

壁の絵を眺めました。


お姫様が行くことの

できなかった風景。


絵描きは筆を取ると

その風景の中に

お姫様を描きました。


すると

絵の中のお姫様が

動き出し

絵描きに笑いかけました。


「ありがとう」


そう言うと

お姫様は

城中の絵の中を

元気にかけまわり

幸せそうに

消えてゆきました。


それから

絵描きは

旅で

素敵な風景に

出会うたび


そこにお姫様の絵を

残していったそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絵の城 ひじきの煮物 @Panda-mechanism

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る