第十四話~家族会議、犯人は誰だ~
突然起こった人形バラバラ事件。
そのせいで私は今、絞首台に立たされようとしている。人形がバラバラになったぐらいでと、前世の記憶を持つ私は思うのだが、『恋愛は破滅の後で』という乙女ゲームならぬバカゲーの世界なんだ。何があったって不思議じゃない。
これから行われる家族会議、ここで私が無実であることを証明しないとリアルに絞首台に立たされてしまう。
突然始まった破滅イベント、全力で回避して見せるぞ。
これより家族会議開始だっ!
食堂に全員が集まった。お父様、お母様、ゼバス、ディラン、アン、ケセラ、ポルチオ。さすがに半蔵を連れてくるわけにはいかなかったので、天井裏で待機してもらっている。
一人ひとり席に着いたことを確認したお父様は、ごほんと咳をした後、大きな声で言った。
「これより、家族会議を始める。議題は今日の朝に発見された、人形バラバラ事件についてだ」
始まった。始まってしまった。今持っている情報だけで大丈夫だろうか。じんわりと手から汗をかく感触がする。それに胸の鼓動がうるさい。
こ、これが恋なのか。なるほど、これは苦しいものだ。だって命の危機と同じような感じなんだからなっ!
……緊張をほぐすための冗談はやめよう。逆に緊張してきた。
乙女ゲーム『恋愛は破滅の後で』の仕様で、登場したキャラクターの一人が議長を務めることになっている。
なんでそんな仕様になっているのかは製作者に訊かないと分からないけど、今はちょっとだけありがたい。
私みたいな素人がよく分からずに話し合いに参加しても場が混乱するだけだ。
何を決めなければいけないのか、そこがはっきりしているからこそ意見を出せるというもの。
まあ、仕切る人がいなくても勝手に話し進めるけどな。命の危機だし。
「では、最初にバラバラ殺人事件が起こった現場について話し合ってもらおう」
「ちょっとまってお父様っ!」
「なんだヘンリー。これから話し合いなのに邪魔をーー」
「その前にバラバラ殺人事件なんて物騒なこと起こっていませんからっ! 訂正してっ! そんな事件の犯人として疑われていると考えただけで胃が痛くなってくる」
「う、うむ、素で間違えた。人形バラバラ事件だったな」
おっちょこちょいなお父様がかわいいのだけど、バラバラ殺人はしていないから。これ以上胃にダメージを与えてほしくないよ。
「まあ気を取り直して、人形バラバラ事件について、まずは起こった事件と事件現場について議論してもらおう」
「あらあらうふふ。確か事件はヘンリーの部屋で起こったのよね。一番知っているのはヘンリーだと思うのだけど」
「確かに私が第一発見者です。あとはそうですね。ケセラも現場をすぐ見ていますので状況を知っていると思いますよ」
「え、私ですかっ!」
ケセラは今日の朝のことすら忘れてしまったらしい。アンといがみ合ってたらしょうがないよなと心の中で納得しつつ、ケセラに教えてあげた。
「今日の朝、私が悲鳴を上げた時に一番最初に来たのはケセラだったじゃない」
「それもそうでした」
「それに、私はもう一人、現場を知っているかもしれない人に心当たりがあるわ」
この一言で全員が私に注目した。
大丈夫だ。私にはこの証拠がある。
「みんな、これを見てほしい」
「っぶ、お嬢様、なんてものを出しているのですかっ!」
ディランが顔を赤くして俯いた。お母様も、困ったように「あらあら」と苦笑いをしている。
私が取り出したのは、比較的に露出が少なかった、服が少しだけはだけている盗撮写真。
これを撮影した人物はこのような写真をたくさん持っていた。つまり、毎日出入りして写真を撮っている可能性があるということだ。
この写真を持っていた、その人物とはーー。
「アン、あんたなら何か知っているんじゃないかしら」
「ああああああっ! お嬢様、私の宝箱を開けたのですかっ!」
あの黒い何かって宝箱だったんだ。ぬめりが酷いし、中身はアレだし、実に最悪な気分になったよ。
確か、乙女の秘密が入っているとかなんとか言っていたような。どう見たって変質者の宝物入れみたいな感じになっているじゃない。
あ、本当宝箱だこれ。だって変質者の宝物を入れているんだもの。
「ごほん、それはそれとして、アンなら何か知っているでしょう?」
「な、何をですか。お嬢様がよく、わぁムーちゃーんみたいな可愛らしい寝言を言っていることですか、そうなんですかっ!」
「なんでお前はそんなに挙動不審なの? ねぇ、やましいことでもあるの」
「挙動不審になるに決まっているじゃないですかっ! 乙女の秘密が暴露されたんですよっ! 机の奥底に眠っていた黒歴史ノートが四年の月日を得て友人に朗読された時のような気分なんですよぉぉぉぉぉぉ」
やばい、その気持ちはわかる。わかってしまう。
ずっと隠してきた秘密を面白半分に朗読されたなら、私はその日ずっと布団にもぐって泣くことだろう。
今のアンは頭を抱えながら暴走状態に陥っている。上半身を大きく回して、髪をかきむしり、奇声を上げていた。
その姿を見ると、私の心がすぅーっと落ち着く気がした。
あれか、ダメな奴を見ると自分が落ち着けるってか。
「話しを戻すけど、アンはいつも私の部屋で盗撮しているのよね」
「はい、してます。ごめんなさい、お嬢様がかわいくてつい……てへぺろ」
うぜぇ……。かわい子ぶって舌をちらりと出す姿は、いろんな人に喧嘩を売っている。
確かに、アンはかわいいが、中身を知った今、そのかわい子ぶった感じがイラっと来る。
「…………っで? あんたは私の部屋で何か見なかったの?」
「な、なんで怒ってるんですか。私、何かしました。してませんよね。してませんよねっ!」
「しつこい、早く答えてよ」
「何も見てませんよ。私が行ったとき、お嬢様は起きていたじゃないですか」
「え、あの時来ただけ?」
私が起きていた時といえば、アンがお茶を持ってきてくれた時だ。あの時間はまだ早い時間だったと思うんだけど。
「ほら、お嬢様の下着が破れていたのを見つけていた時です」
「あらら、ヘンリー。どうやったら下着が破けるのかしら」
お、お母様っ! いったい何を……。
「お嬢様は私と同類だったのですねっ!」
このエロメイド。何考えてやがるっ! そんなんじゃないからね、下着なんてーーーー
「お嬢様……はしたない」
顔を真っ赤にさせて頭から湯気が出ているように見えるディラン君。君はいったい何を想像したの、このスケベっ!
「お嬢様……ふっ」
なんかゼバスに鼻で笑われたっ!
「って、皆それぞれ反応しているところ悪いんだけど、破れていたのは下着じゃないから。人形だからっ!」
「あれ、そうでしたっけ?」
この駄メイド。私と一緒に話をしていたじゃない。これ直そうねって話。なのに忘れるって……。
「あら、あの人形は元々破れていたの?」
「そうですよ、お母様。アンと一緒に見つけました。それで、明日直そうねって話して寝たんです」
「そうだったのですかお嬢様。僕はとんだ勘違いをしていました」
「ディラン? 何を言っているの」
「僕はてっきり、お嬢様が新しい人形欲しさに、今持ってい人形をバラバラにしたものとずっと思っていました」
「いやいやいや、さすがにそんなことしないからねっ! そんなことしたら人形が可哀そうじゃんっ!」
そういうと、なぜか周りが私を感心したような眼差しで、見つめてきた。
え、何? 私変なこと言ったっけ。
「おおっ、ヘンリーよ。そんな優しい心を持っているなんて、父はうれしいぞ」
「あらあら、なんて心優しいのでしょう、私はうれしいわ」
「うう、お嬢様……立派になって、僕も精進いたします」
などなど、皆が号泣し始めた。その扱いひどくないっ!
でもこれで、私が犯人じゃないという方向に進められるんじゃないだろうか。
元々私が犯人にされたのは、新しい人形欲しさに自分でバラバラにしたということだ。
でも、私は破れていた人形を直そうとしていたし、犯人から外れてもいいはずだ。
「ちょっといいかのう」
手をあげて意見したのはポルチオだった。ポルチオは頭をひねりながら、考えながらに意見を述べていく。
「これでお嬢様が人形をバラバラにしていないとは言い切れないと思ってのう。人形を直そうとしてバラバラにしてしまい、それを隠そうとした……という見方もできると思うのじゃが」
そういうと、周りがシーンと静まった。みんな仲いいですね。でも、なんで私を犯人に仕立てようとするのかな、かな?
「なるほど、それはそれで……。好意にバラバラにしたわけではなくなるから、刑罰は軽減されるな。絞首台に立たされることはなくなったが、追放か……。寂しくなるな……」
おい、ちょとまてコラっ!
え、ええ? 何、絞首台に立つことがなくなったのはうれしいけど、追放って何?
私をどんだけ破滅させたいのよ、この世界はっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます