Goodby iMAGiNE。

フーテンコロリ

Foot loose

足をしっかり踏まえて死を受けとめ、これと戦うことを学ぼう。そしてまず手始めに、最大の強みを敵から奪うために、普通とは逆の道を取ろう-モンテーニュ フランスの哲学者




女の子が怖い。そう、私は女性に恐怖と不安を感じて日々生きている。男性にとってこの私の病はとても残酷であり、そして私はもちろん男性である。諸説あるが女性恐怖症というのは自分と母親との劣悪な人間関係性と少年時代に受けた女性からの虐め裏切り等のトラウマ、そのような原因が重なり塵が積もって山となるように発症するらしい。それはそうと読者諸君、ここからはあまりにも不幸な話だからあまり読み進めることはおすすめしない。


「最近さ、由美子イメチェンしたでしょ?」

「ええ?そ、そんなことないよ。ちょっと髪型変えてみただけ」


私は1人で道を歩いているだけなのに、そして若い女性の2人組が向こうからすれ違って歩いていくだけなのに私は動悸がして不安に駆られる、冷や汗を滲ませて壁際に避ける。街角にあるハンバーガーショップの入り口に鎮座した不気味なピエロが私に笑いかけてくる。


私が恋をしたことはある。しかし、成就させようと勇気を出したことは無い。 店前のピエロ人形が木魚の如き甲高い声で目前をかつかつと歩き過ぎる私に喋りかけてくる。


「お前さん、なかなか複雑奇怪な人間だねぇ…こりゃあちょっと可哀想だねぇ…あっ!ちょっと待ちなよねぇ!」


私はこういった幻覚幻聴を小学校第3学年くらいから見るようになった。最初はランドセルの開け閉め用の金具が当たり前だと言わんばかりに「こんにちわ〜」と喋りかけてきた。無論、この常軌を逸した症状はまあるい丘にあるかの墓地の地中まで持っていくつもりである。


中学生になると無口な父親がiPodを買ってくれてビートルズやモーツァルト、ブルーハーツやB'z、宇多田ヒカルや椎名林檎にハマった。私は中2病だったのか、あの幻覚幻聴をビートルズのジョンレノンの残した名曲になぞらえて「イマジン」と名付けていた。


当時、私の入っていた部活はバレーボール部だった。だが廃部寸前だった為もはや帰宅部になりかけていたし、バレーボール部の仲間内4人でよく放課後は地元のゲーセンへと足を運んだ。正直楽しかったが、この時期からもっとたくさん喋りかけてくるが増えた。電柱、掃除機、蝉、車のタイヤ、カラス、潰れた空き缶、食パン、黒板消し、1番迷惑だったのは担任の西崎先生のかけている黒ぶち眼鏡。こいつはハタ迷惑で、先生が喋っているのか眼鏡が喋っているのか皆目見当がつかない瞬間が多々あった。


高校生となるとイマジン達はもはや現世に存在する姿では無くなった。丁度寮制の学校に入り親の手を離れた時期からだ。死神のような黒装束の男、八百屋の軽トラと肩を並べる程の巨大なタコ、T-Rex、小さな妖精、灰色でのぺっとした宇宙人、電車と並走するUFO、歩く達磨と大仏、多種多様なイマジン達は実は全て共通する事柄があった。例えば同級生(勿論男子)と会話をしているとその同級生の頭の上に乗っかっていたおっさん顔の人面魚のイマジンが会話してる間の同級生の気持ちを同調トレースしたかのように笑ったり神妙な顔をしたりする。つまるところ全てのイマジンは側にいる人間の感情と同調していることになる。それに加えて隠している感情ですらも同調することが同級生であり数少ない親友、新人シンジの協力(本人は知らないだろうが)によって確認できた。


「メニューはお決まりですか?」


はっと我に帰ると目の前にカートゥーンだかアニメイションだかに出てきそうな程ぶよぶよのフーセンガムのように太り散らしたデブ男がカウンターごしにエプロン姿で私の顔を怪訝そうに除いている。彼は店員かイマジンか?


「…お客さん?」

店員だな。

「ああ、ハンバーガーひとつで」

ふくよかな店員は少し驚いてから呆れた顔で私にこう言った。

「ふぅ…ここはピザ屋だ兄ちゃん。他をあたりな」


私はメニュー表を見て目を丸くし颯爽とその場を離れた。



あたりはもう暗くなってきた。

「まだ5時前だというのに早いもんだな」


私の住処である賃貸マンションへの帰り道。


杖をつき綺麗な白髪で灰色スーツ姿の老人が玄関先で待ち構えていた。


「あなた、もうじき死ぬでしょうな」


いつも通り私は素通りして玄関にたどり着くところだった。しかし…


「!!!?」


がっしと右腕をものすごい勢いと力で掴まれた。すかさず老人の方を見ると凄まじく見開かれた両の目で私を貫くように直視している。


「な、なんなんだ一体!?」


「あなたは今、自分がわかっていない。そう、それが…それこそが"死"の知らせなのです」


「死ぬ?私が?あんたなんなんだ!警察呼ぶよ!!」


私は恐怖と混乱で汗を噴き出しながらポケットから携帯を取り出して緊急メッセージを使うと。


もう老人は居なくなっていた。







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