第3話 校長せんせーに会ってきた

「今日は休みですよ。」

昨日の疲労が不思議と抜けたせいで

まだ日が登りきらない内に目覚めてベランダに立っていると

マリアが部屋に入ってきていた。

いつもどおり

昨日、疲れてたせいで鍵を締め忘れたか

って、こいつ相手にそういうのを考えるだけ無駄だな。

「それで、その休みになにか用か?」

「はい、島を案内しようかと。」

「それは助かるな。

また月曜からは忙しいんだろうし。」

「えぇ、この土日に理事と校長の会議次第でしょうね。

それにしてももう、分かっていただけたようですね。」

「何がだ?」

「私と抵抗しても意味がないということに。」

「そんなことを言ってる場合じゃないだろ。

あんな危険な奴らがいるならマリアと居た方が安全そうだしな。」

「賢明です。」

「賢明ね、だったら最初からマリアを信じてたさ。」

「いいえ、充分です。

今思えば、私も少し急き過ぎたのかもしれません。」

「あぁ、流石にいきなり家に上がって気絶させられた時は

死んだと思ったよ。」

「以後はきちんとご両親に許可をいただきます。」

「そうしてくれ。と言ってもいつ戻れるかは分からないんだろ?」

「そうですね。彼らはの手下が既にあなたの町を支配下に置いています。」

そう言って俺のスマホをポチポチして

どこかのホームページに表示された日本地図を見せてくる。

「なるほどな。

って、大体の場所が落ちてるんだな。」

「離島を除けば日本全域と言って差し障りがないでしょうね。」

「それで、こんな良く分からない島にしたのか。」

「えぇ、ここならよほどのことがない限り、

彼らが上陸することすら出来ませんから。

と言ってもこちらに来て2日目で襲われたあなたとしては

信じがたい ですよね。」

「まぁ。そうだな。

それより朝メシは?」

「買ってきました。」


島はどうやら要所だけならギリギリ一日で周りきれる程度の距離らしく、

徒歩でいくことになった。

「あっ、もしかして新入生の子?」

朝食を終えてマリアと一緒にこの島の要所の一つ、岩戸屋へと向かっていると

短髪の女性が話しかけてきた。

ジョギング中なのか、顔にわずかに汗が滲んでいる。

「はい。でもどうして?」

「今年の新入生、1人しかいないからね。

私達のクラスだと有名なんだよ。」

「そうなんですか。」

「うん、あっそうだ。私は咲、飯島咲だよ。

よろしくね!

それじゃあ

ジョギングの続きがあるから先いくね!」

短髪を揺らしながら咲はかなりの速度で走っていった。

「元気な子でしたね。」

「はは、ちょっと元気過ぎるぐらいだ。」

「私のような冷静なタイプは苦手 と。」

「いや、そういう訳じゃないから。」

意外とこうなると性格が面倒なマリアの誤解を解きつつ、

俺たちは島の中央辺りにある山のお頂上を目指す。


「ここが頂上か?」

遠目で見たよりも意外と低い山だ。

だが頂上からは島全体が見渡せる。

この島は基本的には楕円形、

ちょうど中央辺りにこの山があって、

山を取り囲むように町が広がっている。

そして北側には学校と寮、

南側は比較的人の手が入っていないらしく、

森が広がっている。

一応、岩戸屋と呼ばれる

ただのどこにでもありそうな神社のような建物を外から見た。

うん、普通、

ここまで歩いてきた労力とは釣り合わないかな。


「それでは次は南の岬です。」

「あそこまで歩くのか?」

「当たり前です。」

「はぁ~。」

「全くこれだから都会っ子は。」

「別に都会じゃなくても2時間もあるき続ければ疲れると思うんだが。」

「そうですか?」

「って、全く汗一つかいてないな。」

「当然です。あなたの執事ですので。」

俺たちは山を降りてさらに町を抜け、

さらに森を抜けて岬へと着いた。

確かに眺めは良い。

どこまでも海が広がっている。

それに色が綺麗だ。

普通の日本では見えないレベルで海が透き通っているのが分かる。

「ちなみに昔の自殺スポットでもあります。」

「そういう要らん情報は良い。」

「そうですか?」

結局、バテた俺に配慮してか

午後は部屋で休むことにした。

休むと言ってもマリアが学校の勉強に付き合ってくれるのだが。


月曜日、

何時も通りマリアと共に登校すると

校舎の玄関にデカデカと張り紙が貼られていた。

”1年x組 田中泰一 校長室まで来られたし、

なお マリア・シュローダの同席を許可する。”

どでかい筆文字でそれも赤色でデカデカと書かれていた。

「マリア。」

「先日の襲撃の件でしょう。

あの戦いで島の人が巻き込まれたしまいましたから。」

「よくわからないが、それと俺と何の関係があるんだ?」

良く分からないまま

2階の職員室の隣にある校長室へと向かった。


「失礼します。1年の田中入ります。」

「ようよう来おったか。うむ、入れ。」

中から老練な女性の声が聞こえる。

その言葉に従ってそっと扉を開けて校長室に入る。

中は赤色の絨毯が敷かれているが、

やたらと高そうな茶器が棚に並んでいる。

「ほぉ、貴様が例の な。」

声には似合わず、

まるで小学生のような見た目の少女が

頬杖をついてこちらをにらみつける。

銀髪のウェーブの効いた髪に真っ赤なルビーのような瞳、

アルビノのような肌とどこかのおとぎ話にでも出てきそうな少女だ。

ただ校長室の椅子と机が高すぎるせいでクッションで

めっちゃ盛ってるのが分かるから睨んできても

怖くはないけどな。

むしろ可愛い。

「それで、何で主が呼ばれたのか分かっておろうな?」

「はい、先日の襲撃の件で」

「そうじゃ、貴様を誘拐するためにエリスが遣わした上位眷属じゃ。

じゃが、そちらの方は手を打ってある。

よほどの事がない限り大丈夫 と言っておこう。」

「上位眷属ですか。」

誘拐したのはあんた達も同じだろう とは口に出かけたが

マリアの手前もあるしやめておこう。

「何じゃ、何も聞かされておらぬのか?」

「えぇ。」

マリアがバツが悪そうにそっぽを向く。

そんなマリアを校長が睨みつけた後、

ふっとため息を付く。

「まぁ良い。後でマリアにでも聞いておけ。

それより本題だ。

まず、田中。お前は学校と寮以外の外出を禁ずる。」

「え?」

「聞こえなかったか?

この校内ならば生徒と教員でお前を守り切れる。

それに寮ならばアヤツがおるからの。」

「通学中は私が?」

「夜はお前だけでは心元ない。

柳生を付ける。」

「分かりました。」

「えっと、それで俺は」

「お前はただ平凡に学校生活を送っておれば良い。」

入学2日目から斧で背後から襲われるのが平凡な生活とは思えないけどな。

「さて、次にだ。敵を知る前に己を知れと言っての。

お前のその微妙な力について説明せねばならん。」

「やっとですか。

スサノオの力だの何だの聞きましたけど全く分からなくて。」

「であろうな。まず前提としてこの国には3柱神がおる。

それがアマテラス、スサノオ、そして今は眠っておるツクヨミじゃ。

柱という名の通り、この国の気候やらを司っておる。

災害を延期させ、大雨を抑え、人災に関わる人のホルモンバランスを

適度に調整する。」

「なんだかすごい話ですね。」

いきなり規模感が分からなくなって来たぞ。

「良いから聞け。

だがそんな折、突然、海外の神が降り立ったのじゃ。

名前をエリーザ エトワリステ

奴はフランスから来た災厄の神。

地元でも嫌われ者だったようじゃの。」

「でも何でフランスの神が」

「それは儂らも分かっておらんでの。

一説にはかつて捨てられた女の恨みだの、

何だのと色々騒がれておる。

じゃがそんなことはどうでも良いのじゃ。

やつは3柱神の内の1柱ツクヨミを昏睡させた。」

「神って眠らせれるものなんですか。」

「神同士ならの。

人間が神を眠らせるには神器程度の宝物がなければ出来ぬが。」

「なるほど。」

多分日本で言う三種の神器とかそういうのだろう。

昔、天皇家が持ってたとかいう。

「それで月の光が弱まった。」

「いきなり話が飛びすぎてませんか?」

「ツクヨミ、正しくは月読というのじゃが、

その力が弱まっているせいで、

神力の場のバランスが崩れつつあるのじゃ。」

「良く分からないんですが。」

「分かりやすく言うとじゃな、

網をピンと張って平らな所に鉄球を投げ入れるようなものじゃ。

そのせいで、神力が正しく作用せず、

現実世界にまで影響を及ぼしておる。

例えば、現在の異常気象、おかしいとは思わぬか?

局地的な豪雨、局地的な地震。

本来はありえないマグニチュードでの震度。

全ては奴が引き金となっている。」

「そんなことが」

「ありえないかどうかは関係ない。

事実起こっていることを儂は言っておるだけじゃ。」

「そうですか....」

事実は小説より奇なりってか。

「それでは儂は忙しい。

またの。」

校長はちっちゃい体をぴょんと椅子から下ろし、

さっさとどっかに行ってしまう。

「....」

何を考えているのか分からないが、

どうやら俺のことを心配してくれているらしいな。

「それは?」

部屋を出ようとすると

マリアが校長の机の上にあった

封筒を指差す。

「お守りじゃ。嫌なら取らなくても良い。」

「もしかしてこのために?」

「でしょうね。あの人私の数倍は長生きですが、

かなりシャイなので。

あなたと話している間もずっと足をフラフラ揺らしていましたから。」

「そうなのか。」


「それで、眷属の話についてお話しましょう。」

1時間目が終わった直後、

マリアがくいっと伊達メガネをかけて教壇に立つ。

「何でメガネなんだよ。」

「女教師と言えばやはりメガネにスーツかな と。」

「スーツは着なくて良いのか?」

「何なら今から着替えましょうか?

ここで。」

「いや、良い。」

「それでは簡単に説明しましょう。

眷属とは女神エリスが彼女の神器 ”愛の手紙<レッド・ラブレター>”によって

操っているただの人です。」

「ただの人が斧をあんな力で使えるもんなのかよ。」

「一応、女神の力ではありますから。

と言っても国を代表するような神ではないので

力は限定的なものですが。」

「でもマリア、お前押し負けてただろ。」

「痛い所を付きますね。

そのとおりです。

アマテラスの加護は夜に弱まる。

そのせいであの襲撃時は手こずりました。

その点、あなたのスサノオは昼夜問わず安定していますね。」

「そうなのか。」

と言っても俺は全く戦えず、

柳生先生がいなければ完全にやられていたわけだが。

「それで何か質問は?」

「スサノオは何で俺以外に力を与えないんだよ。

アマテラスはこの生徒と教員全員が力を使えるんだろ?」

「まぁ、三柱神ともなると好みの差が激しいですからね。

アマテラスも姉しか使えませんし。」

「姉?」

「はい、私達は全員が長女、妹か弟がいるのです。」

「あぁ~。」

「私達にも良く分からないのですが、

恐らく好みの問題なんだろうな と。」

「好みって........」

「そういうものなのです。諦めて下さい。」

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