第10話

 しあわせってなんだろう?

 なんども考えた。


 お金があって。

 愛しい人に囲まれて。

 仕事もあって。

 心も安定していて……


 そして、なんだろう?


 僕にないものがたくさんある世界。

 僕が見たこともないような温かい世界。


 そんな世界に憧れた。

 でも、見るだけでいい。


 だって僕は――


「無理ですよ。

 だって僕はバケモノなのだから」


「バケモノ?」


 正三さんが首を傾げている。


「そうです」


 そう、僕はバケモノだと言われ育った。

 醜いバケモノ。

 受け入れてくれる人は、ゼロじゃなかったけど。

 小さい頃から叩き込まれた負の感情。


「お前は醜い。

 だから愛されない」


 そう言われてきた。

 愛されるってなんなんだろうね。


 僕には難病があった。

 レックリングハウゼン病。

 多分、聞き慣れない病気。

 神経線維腫症ともいわれている。

 皮膚、神経を中心としたいろんな器官にさまざまの異常を生じる遺伝性の病気だ。

 僕は遺伝からのもので、祖父と母親がそうだった。

 僕は、この病気を理由に教師やクラスメイト、上級生から下級生まで嫌がらせを受けていた。

 護ってくれた人なんかいない。

 いるとすれば水樹さん。

 いじめっ子から護ってくれるようなわんぱくな人じゃなかったけど。

 僕にも優しかった。

 誰にでも優しかった。


 メールアドレスを交換したとき自分は大人になれたんだと思った。

 でも、僕は大人になどなれなかった。

 大きなバケモノ。

 人ですらない。


 だから思った。

 僕はひとりでいいと。


「話がよくわからないんだけど。

 君はバケモノなのかい?」


 正三さんの言葉に僕はうなずくしか出来ない。


「はい」


「化けているのかい?」


「え?」


「人を傷つけるのかい?」


「傷つけません。

 気が弱いから……」


 すると正三さんが笑う。


「ははは、君との付き合いは短いが君ほど人間臭い子はいないよ」


「え?」


「まぁ、なんだ。

 アンタが誰かに化け物退治されそうになったら今度は俺が助ける」


 一さんがそういって現れジュースを僕に渡してくれた。


「え?」


「護ってやるよ。

 なにに怯えているかわかんないがな」


「おじさんも護るよ?警察官とかそれ以前の問題でね」


 正三さんもそういった。

 なんだろう?

 僕の心が少し揺れる。

 人もいいひとがいる。

 そう思った。


 でも、僕の心の中には化け物がいる。


 僕の中で人は……

 この世に済む全ての人をなぶり殺しても気がすまないくらいの恨みがあった。

 憎悪というのだろうか。

 僕の中にはそういう悪魔がすんでいる。

 そんな自分を抑えるのに必死で耐えて耐えて耐えて生きていた。


 そして、死んだ。


 なんで死んだかは覚えていない。

 身体が動かなくなってそのまま衰弱死した。


 僕は一体なにをしていたのだろう。


 人を恨んでいたのに今はなにもない。

 一度死んでいるからなのかな?

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