第9話
僕は警察の人と話をした。
食事を満足に与えられなかったこと。
両親が帰ってこないこと。
僕は話せるだけの言葉で話した。
前世の記憶が戻ったことは言ってない。
信用してもらえないから。
本当なのに本当じゃないことにされる。
僕はそういうのを痛いほど知っているから……
ややこしいこともある。
でも、今の僕には何も出来ない。
僕はただ生きることにした。
昨日は生きた。
だから明日も生きれる。
でも、肝心なのは今日を生きること。
だから前に進む。
一歩一歩確実に。
結論から言う。
僕が今すぐシンガポールに行くことは無理だ。
まずパスポートがない。
そして、その手続きをしてくれる保証人もいない。
なんたって、僕は3歳。
その現実を見なければいけない。
「はぁ……
なかなか難しいね」
正三さんがそういってため息をつく。
「そうですね。
でも、諦めます」
「諦めるのかい?」
「30年も前の人に思われているのて気持ち悪がられるかなって……
しかも、死んでいるのに」
「前世の記憶のことをいっているのかい?」
「はい。『前世好きでした』っていっても今更感だよね。
30年前……好きって言えたらよかったのにな」
「そうだね。そうしたら世界は変わっていたかも知れないね」
正三さんの言葉が胸にしみる。
「はい」
「でも、変わった未来がいい方向に行くなんて保証はないよ」
「え?」
「若い子ってさ、『あのときああしていれば……』なんて言うけれど。
そのとき行った行動で成功している可能性が100%とは限らないんだ。
どっちの行動をとったところで失敗している可能性もある。
その結果、30年前の君は死に30年後今の君は生きている。
今からの行動で水樹さんをしあわせにできるって選択肢もあるんだよ?」
「でも、今の僕は子ども……」
「出来ない理由を探すより。
まずは行動だよ」
僕の心は揺らぐ。
嫌ってほど聞いた言葉。
それでも言われるたびに傷つく。
言われるたびに想像してしまう。
しあわせになれるかもしれない未来を……
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