いつか夢見たあの場所へ

勝利だギューちゃん

第1話

山奥を走るローカル線。

1両編成のディーゼルカーが、カタコト走っている。

ある駅で、僕は降りた。

駅舎を出ると、風が心地いい。


軽く伸びをして、僕は歩きだした。


【いつか夢見たあの場所へ・・・】


空を見上げる。とても広い。

(ついに来たんだ・・・)

心の中で、そうつぶやく・・・


この場所へ来るのは初めてではない・・・

なので、とても懐かしい・・・


子供たちが元気よく遊んでいる。

(都会では見れない光景だな・・・)

見るもの全てが新鮮で、僕は感動すら受けた。


僕は鞄から、一枚の写真を取りだした。

写真には、女子高生がにこやかにほほ笑んでいる。

(あれからもう、ずいぶん経つな・・・)

僕は懐かしさでいっぱいだった・・・


そして、一枚のメモ。


僕はそのメモを見ると、期待と不安でいっぱだった。


前に来たのは、高校の頃だった。

クラスみんなで、遊びに来た。

その時以来だ・・・


そして、泉を見つけた僕は、そこで一休みをした。

泉の名前は、わからない・・・

でも、とても透き通っていた・・・


そこへ、クラスの女子がやってきた・・・

「君も来てたの?」

「うん・・・」

「奇麗だよね・・・」

「そうだね・・・」

しばらくふたりで、泉を眺めていた。


「ねえ」

ふいに声を掛けられた。

「10年後に、ここで同窓会をしようか?」

「同窓会?」

「うん、同窓会」

面白いと僕は思った。

「よしやろう」

「決まりだね。はいメモ、無くさないでね」

「メモ?」

「同窓会の日取り?タイムカプセルみたいで面白いでしょ?」

確かにそうだ。


「うん。じゃあ10年後に・・・」

「約束だよ、みんなにも渡してくるね」

そう言って、彼女は走って行った。

「10年後か・・・どうしているかな・・・」

その時は、すぐに忘れてしまうと思っていた。


ところが、忘れる事はなかった。

メモは大事にしまっていて、とても心待ちにしていた。


そして、その日が今日だ・・・

「みんな元気かな・・・」

再会を心待ちにしていた。



約束の、場所の泉に辿り着いた。

でも、誰もいなかった・・・

しばらく待っても誰も来ない・・・

「もしかして、騙されたか・・・でも、いっか・・・」

その時だった・・・


「来て・・・くれたんだね・・・」

振り返ると、懐かしい女性の姿がいた。

あの時の女の子だ・・・


「久しぶりだね。元気だった?」

「うん元気だったよ・・・」

「ありがとう・・・来てくれて・・・」

見渡すと誰もいない・・・


「他のみんなは?」

僕は彼女に訪ねた。

「来ないよ。私と君だけ。つまり、二人きりの同窓会」

「だって、みんなにメモを・・・」

「君しか渡してないよ・・・」

僕は分からなかった・・・


書かれていたメモ、それは同窓会に日取りだった。


「夢、叶えたんだね」

そういって、彼女は一冊の本を取りだした。

『いつか夢見た、あの場所へ』

僕が書いた本だ。


「作家さんに、なったんだね。いつも読んでるよ」

「そう、ありがとう・・・」

僕はそれだけ言うのが、やっとだった・・・


「私もね・・・」

「えっ?」

「私もね、女優を目指してたんだけど・・・」

「ああ、言ってたね」

あの頃の彼女の事を、思いだしていた。


「でも、私は叶わなかった・・・だから、君には頑張ってほしいんだ」

「・・・さん」

彼女の顔には、後悔はないように見えた。


「約束覚えてる?」

「約束・・・」

「うん、約束・・・」


僕は思い出していた。

すると、ある会話が浮かび上がってきた。


「もしかして、ふたりとも夢を叶えたら、結婚しようていう・・・」

「覚えていてくれたんだ、ありがとう」

僕は、こういうどうでもいいことの、記憶力は強い。


「あれね、冗談ではなく、本気だったんだ?」

「まさか・・・」

「ううん、真面目な話・・・」


彼女の表情は真剣になる。

「でね・・・もしよかったら・・・お嫁さんにしてくれないかな・・・」

「冗談でしょ?」

「ううん、本気」

考えるまでもなかった。

彼女は、僕のずっと、思い続けていた人・・・


抱き合う二人の影が、泉に映った・・・

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いつか夢見たあの場所へ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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