カロリーの低い肉

 あなたは普段から体重に気をかけているタイプですか?

 有名な話ですが、アメリカでは肥満が社会問題と化しているそうです。なんでも国民の1/3が肥満、あるいは肥満予備軍だとか。

 それもこれも、カロリーの高いものばかりを口にしていることが原因だそうですね。

 アメリカは裕福な国家ですから好きなタイミングで好きなものを食べられますからね。そして不思議と、身体に悪いものほど美味しく感じられるものです。ピザ、ポテトチップス、ハンバーガーなどなど……。

 もちろんアメリカも対策をいくつか打ち出しているようですね。スポーツを推奨して国民の定期的な運動を促したり、体内の脂肪を自然と燃やして消費エネルギーを増やす薬を摂取させたり。なかにはタルみたいに肥え太ったお腹にチューブを突き刺して、体内の脂肪を強引に吸引して痩せさせる手術まであるそうです。

 同様にさまざまな企業が、肥満の根本的な原因である食を改善しようと研究しているそうです。大豆を使って肉そっくりの味を再現したハンバーグを提供することで、食いしん坊たちの舌を満足させつつ、脂肪分のとりすぎを控えさせたりもしているんですって。

 ただ、それでも胃袋の大きなひとはどうしても食べすぎてしまうらしいので、結局、摂取エネルギーのほうが消費エネルギーを上回ってしまうそうなんです。結果、肥満の加速を食い止められないんだとか。

 ここで、あるひとが考えたそうです。

 お腹いっぱいに食べなくては満足できないひとのために、極端にカロリーの低い肉を提供してあげたらどうだろうか、と。満腹になるまで食べても摂取カロリーを抑えられて、しかも安価で購入できる理想の肉はどこかにないだろうか、と。

 あったんです。それも、だれもが知る有名な動物の肉が、その理想の食材だったんですよ。

 ウサギです。

 ウサギの肉のカロリーってご存知ですか? 100gあたりわずか146kcalだそうです。豚肉カロリーの100gで386kcalと比べれば、なんとわずか半分の栄養しか含まれていないんです。これはウサギの肉に含まれる脂質やビタミンなどが不足しているためだそうですよ。つまり、ウサギの肉であればお腹いっぱい食べても太りにくいわけです。

 ただ問題がひとつ。ウサギは身体が小さいでしょう? そのため需要に対して供給が追いつかないんです。アメリカ国民の数と比べても、ウサギの総数はそこまで多くないですしね。

 で。ここからがうわさなんですが……いえ、あくまで友人の友人からきいた話ですよ?

 アメリカでは、遺伝子改良によるウサギの巨大化を推し進めているそうなんです。

 ウサギはそもそも繁殖力に優れた動物ですし、そのうえにサイズが大きくなれば、豚や牛、鶏に次ぐ動物性タンパク質になってくれるんじゃないかと期待されているそうです。

 研究はすでに最終段階にまで進み、ウサギのサイズはついにゴールデンレトリバーの成犬ほどになったところで、いよいよつがいのウサギを数匹、広い農場に放牧したそうです。

 遺伝子改良されたウサギの繁殖力は凄まじく、わずか二ヶ月で数十匹にも増殖したそうです。このぶんであれば、さらに二ヶ月も経過すれば数百匹に……と期待されていたあたりで、そのウサギたちは、まもなくほとんど実験農場から回収されてしまったそうです。

 理由は単純でした。

 増殖のペースが早すぎるですよ。

 二ヶ月で総数が十倍にもなってしまううえに、ウサギたちはかなりの大食漢でした。農場に生えていた雑草はまたたく間に食べ尽くされてしまい、ウサギたちがいなくなった農場にはむき出しの土とコロコロしたフンばかりが残っていたそうです。

 ただ、回収時に問題が発生しました。

 ウサギを数匹、取り逃がしてしまったそうです。想定以上に巨大化したウサギたちはその脚力で農場のフェンスを飛び越えると、近くの森へ姿を消してしまったそうです。

 その事件から数ヶ月。その土地ではときおり、人間ほどのサイズの巨大なウサギを森や草原で目撃したという証言が相次いだそうです。が、企業のイメージダウンを恐れてか、その目撃者たちには多額の口止め料が支払われたそうです。

 その地域にはウサギの天敵となる野生動物がいないため遺伝子改良されたウサギはフェンスの外で増え続ける一方でしょう。が、企業も極秘裏に大量のハンターを雇って、ウサギの捕獲に乗り出しているそうです。

 果たして勝つのは、ウサギの繁殖力か、企業の意地か、どちらでしょうね?

 もしウサギの生命力が勝利したときには──アメリカの緑地が丸裸になっているかもしれませんね。

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