ハイスペック園児 まさや君其の3
あきらさん
第1話
「より子先生。ボクは下ネタとか下品な事は、あまり好きじゃないんだ」
おちん○んを丸出しで走り回るまさや君の言葉は、なんとも説得力がなかった。
今はプールの時間。
大人の膝下くらいの深さしかないプールで、数人の園児達がはしゃぎ回っている。
今日は極端に人数が少なく、まさや君を含めても10人ほどの園児しかいないが、私の他にも橘先生という若い男の先生と、水沢先生という私より3つ歳上の先輩の女の先生が、一瞬にプールに入っていた。
ほとんどの園児達はその2人の先生と一緒に遊んでいたが、まさや君だけはいつものように、私の側を離れようとしなかった。
「ねぇ、より子先生。先生はビキニには着替えないの?」
「先生は泳がないから着替えないわよ。みんながプールで楽しく遊べるように見守るだけだから」
「ふ~ん……そうなんだ。より子先生のバッグの中に、ビキニが入っていたように見えたんだけどなぁ……」
な……何でまさや君は、その事を知っているんだろう!?
実はみんなが帰った後、プールの掃除をする時に、タイミング良く誰も居なかったら、こっそりビキニに着替えて、少しだけプールを楽しもうと思っていただけなのに……
まさや君に、いつ見られたんだろう……
「ねぇ、より子先生。先生はどんな泳ぎが得意なの? クロール? バタフライ? それともケロッグ?」
「実は先生、若い頃に背泳ぎで県大会を優勝した事があるのよ」
「ふ~ん……そうなんだ。より子先生は泳ぎでも、前を向いて生きていないんだね」
改めて思うが、やっぱりまさや君は言う事が凄い……
泳ぎ方の事を例えて、私の人生を否定しているのか、県大会に優勝したレベルなのに挫折した事を指摘されているのか分からなかったが、どちらにしても私が前向きに生きていない事を見透かしていた。
まさや君がケロッグと聞いたのは、実はフロッグと言いたかったのではないかと思ったけど、そこはあえてつっこまなかった。
おそらく平泳ぎをカエルと言いたくて、フロッグをケロッグと言ってしまったんだと思う。カエルのケロと、かかっていた所が紛らわしかったんだろう……
「ねぇ、より子先生。先生は何でボクにパンツを履きなさいって言わないの?」
「えっ? ご……ごめんなさい」
「ボクのおちん○んは見せ物じゃないんだ。プールで全裸の子供が走り回っていたら、パンツを履きなさいって教えるのが大人の役目だよ。それに、さっきのケロッグのくだりだって、わざと間違えたのに何でちゃんと指摘しないの?」
「ごめんなさい」
「ボクが身を持って、より子先生を教育してあげているのに、ガッカリだよ」
そう言ってまさや君は、呆れたように後ろを向いてパンツを履いた。
「より子先生。世の中っていうのは、先生が思っている以上に不条理なものなんだ。年下の上司に説教される事なんてざらにあるんだよ」
「……はい」
「ボクに言われてめげているようじゃ、この先やって行けないからね」
「わ……わかりました」
「ボクだって言って分からない人間には、最初から何も言わないよ。より子先生が頑張れる先生だと思っているから、体を張って教えているんだからね」
私の中には反省という言葉しか思い浮かばなかった……
先生として……いや、大人として、教育する者の心構えが甘かった事に、改めて気付かされた……それも幼稚園児に。
「でもね、より子先生。ボクがきつい事を言うのは愛情の裏返しなんだからね。決して憎くて言ってる訳じゃないって事だけは、勘違いしないで欲しいんだ」
ちょうどこのタイミングで、まさや君のお母さんがお迎えに来た。
「より子先生。さっき、若い頃に背泳ぎで優勝したって言ってたけど、より子先生は今でも十分若いから、自信持ってね。じゃ、また明日!」
いつものようにお母さんと手を繋いで帰るまさや君だったが、何故だか今日のまさや君の後ろ姿は、仕事が出来る上司のように、大人びてかっこ良く見えた。
一体、まさや君は家でどんな教育を受けているのだろう……
今の所、あまり接点を持っていなかったが、ご両親の方がある意味えげつないような感じがしてきた……
ハイスペック園児 まさや君其の3 あきらさん @akiraojichan
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