第5話 どうせ死ぬのに、どうして生きているの? 2

〈登場人物〉

サヤカ……小学5年生の女の子。

ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。



サヤカ「ねえ、ウサ。ウサは、なぜだか生まれてしまったっていうことが全ての始まりなんだから、『何のために』なんてことにはならないって言ってたけど、それって、本当なの? 本当に生きている意味って無いの?」


ウサ「あえて言えばね、人間は、『楽しむため』に生きているのよ」


サヤカ「楽しむため?」


ウサ「うん」


サヤカ「それって、自分の好きなことをするっていうこと?」


ウサ「ううん、そういうことじゃないの。ねえ、サヤカちゃん、自分が死ぬところはどうしても考えることができなかったよね。今度は、自分が生まれてこなかった世界を考えてみて」


サヤカ「生まれてこなかった世界……?」


ウサ「そうよ、もともとサヤカちゃんが生まれてこなかった世界よ。サヤカちゃんがいない世界」


サヤカ「うーん……わたしっていう人間が生まれてこなかった世界……わたしっていう人間がいない世界だよね……わたしがいない世界……いない世界……あっ! これって死ぬことを考えるときとおんなじだ。生まれてこなかった世界を考えようとすると、どうしてもその世界を上から見ているわたしがいる!」


ウサ「そうね。自分が生まれてこなかった世界っていうのは考えられないのよ。よく、ある人が生まれてきた確率はすごくすごく低くて奇跡的だっていう言い方がされるよね。その人が生まれてくるためには地球が存在しないといけなくて、生物が今あるように進化しないといけなくて、人類が存在しないといけなくて、サヤカちゃんのお母さんとお父さんが出会わなくちゃいけなくて……なんていう風にね」


サヤカ「うん。学校の理科の時間に、そう先生に習った気がする」


ウサ「そういう考え方はね、全然間違っているのよ。本当はね、サヤカちゃんが生まれたことには、確率っていう考え方を適用することはできないの。確率っていうのは、あることが起こる場合と起こらない場合とを考える必要があるけど、サヤカちゃんが生まれなかったことを考えることはできないんだからね。それこそが、本当の奇跡なの。この奇跡を感じること、楽しむことが、人生の目的なんだって言うことはできるかもしれないわ」

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