イズホさま

ユキガミ シガ

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 少し前から、SNSでよく見かける占いがある。

 イズホさま、という占いで、よく当たるらしい。拡散を希望するタグ付きでURLが投稿されているのを何度も見かけたが、ついたコメントを見る限り、賛否両論だった。

 だが、幾度か見るうち、あることに気付いた。評価がほぼ、”よく当たる”か、"アクセスできない"のどちらかなのだ。

 アクセスできない、が多数を占めるところを見ると、ジョークサイトの類なのかもしれない。何らかの手段で、口裏を合わせ、よく当たると噂を広める。サイトに入れない人は混乱する。そんな手段で、そのうち種明かしがあるのだろうか。

 そんな風に思ったりもしたが、いつまでたってもそんな様子もなく、何となく不気味な印象に変わり始めた。

 かくいう私も興味本位でアクセスしてみたが、愛想のない真っ白な画面の中央に、細い黒の線で、縦八ミリ横五〇ミリほどの枠と、小さな送信ボタンが表示されただけだった。

 そこに名前を入力する仕組みであるという話は聞いていて、実際に試したが、枠すらも表示されない、真っ白な画面に遷移してそれっきりだった。

(念のため記載しておくが、勿論htmlソースも確認済である)

 恐らく、大多数の"アクセスできない"のはこの状況ではないだろうか。もしかして混雑が原因であったり、アクセス時間に限りがあるのかと、色んな時間にアクセスしてみたが結果は変わらなかった。

 そのまま、真相不明で終わるかと思ったが、よくやり取りをするネット上の知り合いのうちに、アクセスが出来たという人物が居るのに気付いた。

 早速、以前聞いていた彼女のメールアドレスに、事の真意を質すメールを投げてみた。

 まず、本当にアクセスできたのか。できたのなら、単なる占いサイトなのか。繋がらない人間が居るのはなぜか知っているか。と、大体こんなことを質問した。



 二日ほどで連絡が来た。内容を読むと、ますます謎が深まった。

 彼女が言うには、その白い枠に名前を入力して、ボタンをクリックすると、画面はよく見かけるようなチャットのフォームに推移したという。

 画面には恐らく自動入力とみられるメッセージだけが表示されていた。

 ”(名前)さん、こんにちは!”とかそういうものだ

 懐かしい、と思いながらも、何気なく自動でリロードされる画面を見ていると、突然メッセージが表示された。

"あなたの、"

 訝しく思いながら注視する彼女の前で、再度リロードされた画面には以下の文字が表示された。

"交際相手の、"

 え、と思った彼女は慌ててリロードボタンをクリックする。そして表示された文字に言葉を失う。

"浮気の事ですか?"

 ゾッとした、と、綴られていた。

 曰く、半年ほど前からどうも浮気の気配を感じているのは事実らしい。とはいえ、そんなありふれた悩み、ランダムで表示されたコメントが当たっただけかもしれない。そう思い直して、やりとりを続けることにした、という。どうやら彼女も噂の事が気になっていたらしい。

 はい、と入力して送信ボタンを押すと、自分の名前とセットで表示される。


(名前)さま:はい


と、こんな調子だ。相手の名前の欄にも漢字の名前が表示されていたというが、残念ながらもう覚えていないとのことだった。ただ、陵とか、母とか、そんな文字があった気がするという。当て字が過ぎて読めない、という印象で読み方を考える気すらしなかったとのことだった。

 イズホ様として紹介されているのに、イズホとは読めない感じだったのは間違いなさそうだ。

 その彼女が、本当に戦慄したのは次の瞬間だった。

 まごついている間にまた決められた時間が過ぎた様子で、画面が再読み込みを始める。表示された文字列を呼んだ瞬間、彼女は思わず小さな悲鳴を上げた。


(---)さま:浮気相手は――――です。


 相手が告げてきたのは、知人女性の名前だった。確かに。交際相手と共通の知人でもある。でもなぜ、それをチャットの相手が知っているのだ?気持ち悪くなった彼女はすぐに画面を閉じてしまった。

 そして、それからは何度アクセスを試みても、私と同じように、画面推移しなくなってしまったという。

 メールの最後には、余りにも気持ち悪かったからか、それからずっと悪夢が続いている、と書かれていた。



 ――ここまでなら、彼女が話を盛っていないとも言い切れず、なんだか気持ちの悪いサイトの噂がある、というだけで終わっていたと思う。

 問題は、それからひと月ほど後、件の彼女との共通の知人であるRからかかってきた電話だった。

 内容は、彼女が失踪したというものだ。

「彼氏が友達と浮気して泥沼だって言ってたから、なんかあったのかも」

 Rはそんなことを言っていたが、それよりもぽつりと漏らした言葉の方に背筋が凍った。

「本人は否定してたけど、背中に手の形の青痣があってさ…。絶対暴力受けてたんだよ」

 この話を聞いて、私は半ば確信した。あのサイトは何か酷く恐ろしいものだったのだと。

 というのも、チャットの方に辿りつけたとSNSに書き込んだ人物を、私はできる限り多く調べて、その後の書き込みを注視していた。だから知っている。あのサイトに辿りつけたうちの半分近くが、

 気色の悪い話だと思っていたら、そのうちパラパラと、書き込みが絶える人間が現れ始めた。

 いかにも日常、といった投稿の後、何の前触れもなくぷっつりと投稿が消える。そしてアカウントと繋がっている友人を根気よく辿ると、失踪の事実に突き当たる。

 えも言われぬ寒気を覚えつつも、検索を止められない。そんな毎日を送っていた、その矢先の電話だ。

 そんなことあるわけがない。それでもどこか、そう思っている自分がいた。けれど、彼女は今もって戻ってきていない。

 家族の居る、地方――彼女は山陰に住んでいた――の、ごく普通の民家の二階自室から着衣を残して忽然と消えてしまった彼女は今一体、どこで、何をしているのだろうか…。

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イズホさま ユキガミ シガ @GODISNOWHERE

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