武装兵器-Gear Frame- 天空への架け橋

早見一也

第1話:空へ堕ちる

 視界は爆炎に塗れていた。嗅いだこともない刺激臭が鼻に刺さってしょうがない。

 一刻も早くこの場から逃れたかったが、それが不可能である事が、眼前の景色は物語ってくる。


 ここは高度1000メートル。

 火を噴くのは自分が装備している鎧型兵器、GFギアフレーム

 つまり、自分の皮膚に火が付いているも同然。

 もし脱ぎ捨てようものならば、その瞬間から真っ逆さまに落下、真下にあるGF発着場に血の華を咲かせる以外の道は無い。

 逃れる場所など、ありはしない。


 俺は死ぬんだな。


 昨日食べた夕食の味、一週間前に聞いたいつ役に立つのか分からない同僚の下らない話、子供の頃行きたいと思った場所。取り留めのない事が頭に浮かび上がってくる。

 彼は虚ろな目を空に向けた。空虚な表情のまま、涙が溢れてくる。止まらなかった。それが絶望によるものか、作動不良によって生じた火と煙のせいなのか、全く判断がつかなかった。

 彼の眼球には、昨日と変わらない青空が映っていた。

 どこまでも爽やかな晴れた青色がこんなにも残酷に思えた事は、彼の人生で初めてだった。




「俺は、降ります」

 幽鬼を思わせる蒼白の表情で、彼―――リキル・スランプルは静かに言った。

 リキルと言えば、GFを操る「機動歩兵」のトップエース。幾多もの戦場を駆け回り、不敗を誇るエリート中のエリート。

 だが、その言葉を聞いた誰もが、彼に対して批判的にはなれなかった。

 無理もない。空の中で機能不全に陥り制御不能となったGFがめちゃくちゃに飛び回り、運よく池に飛び込んでくれたから命は助かったものの、飛び込む寸前まで、いや恐らくは飛び込んだ時こそ「死の恐怖」というものを嫌になる程味わっただろう。

 死ぬ事に恐怖しないのは勇者ではなく、狂人のみ。

 人間も「生物」であるのだから。死を避けようとするのが当然なのだから…。




 GFという金属鎧に似た全身装着型兵器の登場から5年。魔法都市ヴェルミリオンではGFを主力とした軍隊をいち早く組織したがり、GF用の装備、GF技術を応用した様々な技術研究の熱狂は今やピークであった。

 その最中であるからこそ飛行技術フライトテクノロジーは注目を集めてはいたが、困難を極める事は明白であり、危険も大きかった…。



「お前さんの親父は変わりもんだったな」

 解散後のブリーフィングルームで、ヴロス司令官は言った。戦傷が原因で前線を退いた彼は退役を望んだが、むしろ昇進させられて今の地位にいる。

 ラフな軍装をしており、ジャケットは着ていない。隆々な筋骨がシャツを膨らませ、手入れのされた白鬚とオールバックにしている銀髪が煌めいている。ごつごつした顔からは厳しさより「親父さん」とでも呼ぶべきを感じさせた。だらしがないというというよりは、安心感を身に纏っているようだった。

 言われた少女は応えるでもなく、ぼんやりと机上に広げられた書類を眺めている。

「GFの技術研究、それも飛行技術とくれば、目立たねえわきゃねえ。成功すればこの上ない名誉が手に入るが、失敗も目立つ」

 2年前にラング・クリアシャフト技師によって造られた試作は、空を飛ぶ事も出来ない代物だった。

 今日の試作品の為に、様々な苦労があった。様々な機関につなぎをつけて調達した資材と人員、危険を承知で付き合う機動歩兵、専門技術の書物と研究員からの知識。そして、それらの為の資金。

 だが、それら苦労の結晶は、遥か高い空の中で爆散した。

 なんとか一旦は空を飛べたが、そこまでだった。

 試作品は全損し、テスターとなる機動歩兵も居なくなった。

 資金は既に尽きているし、これまで協力してくれたメンバーも今日の結果を見て考えを改めるだろう。

 次は無い。そう思って今日を迎えたというのに。


「今日は今日。明日は明日の成果を出せばいい」

 ヴロスは、結果についてはそれ以上何も言わなかった。言うまでもなく、目の前にいる少女は分かっているだろうから。

「まあ、リキルはしょうがねえよ。次を探そうぜ、な?」

「いえ…」

 消えるようなか細い声だった。切り揃えた前髪と短い眉、そしていつもならぱっちりと開いた目は、今や全てしょぼくれている。薄汚れた技師服をいつも誇らしげにしていたものだが、自身の行動全てに恥じている様子ですらある。

 少女―――マイラ・クリアシャフトは本来、天真爛漫な少女なのだが、見る影もなかった。

 ヴロスは頬を掻き、苦笑いをしていた。コーヒーの一服で間を置きつつ、話題を探す。

 が、何も見つからなかった。いや、一時しのぎなんかしている時間も無い、か。

「機動歩兵は何とかしてみる」言うや否や、ヴロスは席を立った。

「マイラ、今日はもう寝た方が良いぜ。ここの所、ろくに寝てないんだろ。さっさと部屋戻って寝ちまえ」

 のっしのっしとヴロスは歩いていく。

「あ…」

 マイラは、それを見送る事しか出来なかった。




 ヴロスに当てがあるわけではない。歩きながらどうするか考える程だった。

 GFを操る者―――軍でGFを操る者は全て「機動歩兵」と呼ばれる。兵士の中でもエリートなのだが、公的にはこの者達しか居ない。

 GFはそもそも軍用ではなく競技用だった。背部ブースターや肩部バーニアによって俊敏に地を滑るように移動する事で相手より速くコースを走るGFレースから始まり、そこに球や専用器具を用いた競技が加わって、GFの一大ブームが築かれた。

 そして、多くのアスリート集団も生まれた。競技の為にGFを操る者は「ランナー」と呼ばれ、区別される。

 ランナーは機動歩兵以上に扱いが難しい。一般市民の認知度は、軍の兵士なんかよりもよっぽど人気だし、軍隊に所属しているわけではないから強権を振るいにくい。


 エリートである機動歩兵も、おいそれと貸せる状況ではない。

 安全の保障があるならともかく―――無いのだ。ひょっとすれば、死ぬかもしれない。今日の結果がそれを物語っている。

 ではヴロスか、マイラ本人が飛ぶか?残念ながらそうはいかない。正規のGF乗り―――機動歩兵かランナーとして登録されている者以外が飛行しても、実験結果が公的に認証されない仕組みとなっている。

 それはGF自体、ライセンス認証が最重要視されている背景事情のせいだが―――まあ、詳細については別の話となる。


 ランナーは論外として―――恐らく、軍に所属している機動歩兵は無理だろう。失敗した結果を作ってしまった今、興味を持ってくれる兵は居ないだろうし、その上官はもっと反対するはずだ。部下をむざむざ死なせる能無しは居ない。

 リキルは数年前にヴロスに戦闘技術を教えてもらった恩義によって立候補してくれたが―――もう頼めなくなってしまった。

 ただ、駄目もとでテスター公募をした時に一人だけ手を上げてくれた者が居た。

 機動歩兵ではない、それどころか兵士ですらない学徒だった為に書類審査によって落とさざるを得なかったが―――。

「確か、全くのトーシロじゃなかったな…」

 GF技術習得の為だけに新設された学園、そこに所属する学園生だった。

 まあ、将来自分の元に来るようなら、その時にからかってやるか程度に考えて笑っていたのを思い出す。

「藁にも縋る…いや、猫の手も借りたい、か?」




 マイラに考えがあるわけではない。しなければならない事マスト・ビーと、した方が良い事ベター・ビーだけが分かっている状況だった。

 分かっていても、身体は動かない。水底に沈んだように手足が重く動かせない。

 気持ちも、冷めたままだった。今まで、全てに熱意をもって臨んできたというのに、積もり積もっている作業はもはや億劫ですらあった。

 椅子にもたれかかる。背中から伝わってくるふわっとした感触。手足の感覚が希薄になってくる。

 ヴロス司令の言った通り、ここの所全く寝ていなかった。その疲れが一気に押し寄せてきた。

「テストデータをまとめて、真因分析して、設計全般見直し、魔導回路再設計の検討、部品別動作チェック、完成後の動作チェック…」

 口をついて出て来たのは、今後待ち受けている作業の名前だった。

 分かってはいた。やる事が多いのは。それでも、襲い掛かってくる眠気は白いもやとなってマイラを包み込む。

「………」

 目が覚めたら、全てが夢であってくれと思いながら、マイラは瞼を閉じた。


 この世界の空間には、殆どどこにでも粒子状のエネルギー体、「魔素マジック・エレメンタル」が存在する。GFは、魔素の性質と運動を、前もって決めたように制御する装置を全身鎧のあちこちに装着して作動させる事で動作する。

 だからこそ非力な人間が鳥のような速度で、猛獣のような力を発揮できる。


 2年前、マイラの父親であるラング・クリアシャフトは飛行が出来ない飛行ユニットという、その話だけ聞けば正に「論外」という代物を作った。

 その事についてラングは何も言わぬまま、病魔によって命を落とした。

 ただ、その飛行ユニットは幾重にも施された安全装置が作動したからこそ飛行しなかった、とマイラは見ている。

 というのも、魔素には属性というものがある。熱帯地帯にはおおむね火の魔素が、極寒の地には氷の魔素が多いといった具合だ。

 飛行ユニットには火と風の魔素を多量に必要とするのだが、そうそう都合よく火と風の魔素が周囲に存在するとは限らないため、取り込んだ魔素を一旦コンバーターによって属性を変換し、魔素を利用する。

 ラングは、飛行によってコンバーターの許容量を超えるような負荷をかけたり、コンバーター自体の故障が疑われる場合、ただちに警告する機構を組み込んでいたのだ。

 それ自体について、マイラはむしろ素晴らしい装置だと思ったものだが―――人は得てして結果しか見ようとしない。「飛べなかった」という結果のみが拡大し、拡散してゆく。分かりづらい過程に目を向ける者はほんの一握り。

 その、一握りの人達が結集していたのだが―――。


『大丈夫だよ』


 マイラはハッと顔を上げた。ひどい姿勢で寝ていたらしく、背中が座板に押し付けられていた。首が痛い。

 大丈夫だよ―――とは、父であるラングの口癖だった。

 マイラもよく言われていたものだ。大丈夫だよ、もう一度考えてごらん。大丈夫だよ、どうして駄目だったか考えてごらん。

 きっと父さんなら―――。

「諦めない。もう一度だ!」

 机上の書類をかき集め、マイラは駆けだした。

「落ち込んでる場合じゃないんだよ!」




 ヴロスが、テスターに応募してきた勇者バカとアポを取って呼び出すのに、さほど時間は要さなかった。

 魔導技術総合学園。設立にあたって派手な事を色々やらかしたと噂の施設にしては、地味な名前だった。

「お前が、『この』城ノ島織人で間違いないな?」

 目の前に居る少年に一枚の紙を突き出す。少年はボーッと書類に書かれてある字を眺め、視線を上下左右させる。

 魔導器通信―――導信によって呼び出した生徒は、さらに地味な生徒だった。

 それについては問題は無い。むしろ真面目な印象で、好ましいぐらいだ。

 いくつかの間が空いたのち、少年は言った。

「はい、まあ」

 覇気のない返事。漆黒の短髪に冷気を感じるような蒼眼だが、半目の寝ぼけ眼と寝ぐせが、整った容姿を台無しにしているようだった。

 既に時刻は昼過ぎだが―――まあ、教師じゃあるまいし、生活習慣については言うまい。


「まあ、座ろうぜ」

 眠気覚ましの為にも、と入ったのは場末の喫茶店だった。清潔感のある白を基調とした店内は窓が少しだけ開いており、いい塩梅の風が吹いてくる。

 コーヒーと軽食を幾つか注文し、何気なく書類を読み直す。

 引っかかる部分は少ない。簡単に彼の経歴が書かれてあるだけのものだ。

 これまではGFに全く関わりなく過ごしてきたが、学園に入ることでGFの世界へ飛び込んだ。まあ、さほど珍しくも無い。

 ただ、この名前はどこかで見たような…まあいい。

「急に呼び出して悪いな。驚いただろ?」

「はい、2回びっくりしました」

「ん?」

「落選通知が来たところから連絡が来た事と、もう終わった話をされるとの事でしたので」

「…そうか、まあそこまで把握してくれてるなら話は早い」

 既に情報は自主的に拾ってるらしい。思ったよりGFに興味持ってるな、見かけに反して。

 見かけに反して、と言えば自分の役職の方かもしれないが。

「そう、お前の言う通り実験は失敗に終わってる。経緯は知ってるな?」

「僕が知ってるのはニュース紙に書いてある事ぐらいですよ。空中で操作不能になって、池に落ちたとか」

「心配するな、俺が知ってるのもそれぐらいなもんだ。専門的な事については目下調査中だ。…一人で」

「一人で」少年はぼんやりと言葉を繰り返した。感情は読めなかったが、検討はついた。

「呆れるだろう?最新技術の研究だってのに、支援者スポンサーがいねえんだ。どいつもこいつも、成功してから話に乗りたがってやがるのさ」

支援者スポンサーが居ないのは失敗したから、ですか」

 またもぼんやりとした言葉だったが、内容は核心をついていた。

「そうだ。今までも大勢のメンバー引っ提げてたわけじゃねえが、それでも人数は居た。そいつらまで居なくなっちまったよ」

 ヴロスはそこまで言い終えると、運ばれてきた軽食をかじった。

「つまり、テスターも居なくなってしまったんですね」

 少年も軽食に手を付ける。油揚げしたポテトの香ばしい匂いがその場に漂い始めた。

「察しが良いな、お前。…はぁ、そうなんだよな。残った技師はたった一人と、大して役に立たねえおっさんが一人だ。テスターもいなけりゃ技師も足りない。そしてカネもなけりゃ時間も無いんだ」

「時間も?締め切りでも設定されましたか」

「誰かが言ってきたってわけじゃねえがな…本来、GFの新技術は魔法学会で審議されて、有用だと判断されたら各種手続きが進んで、量産化に向けてプロジェクトが動くもんなんだ」

「なるほど…それで、模擬試験デモンストレーションで墜落。成功しそうだからこそついてきたメンバーも去っていき、手元には何も無くなったって事ですね」

「はっきり言うよな、お前。…まあ、その通りなんだがよ」

「まあ、それで良いのでは」

「なに?」

「成功させたい人こそ、本当に必要な人員でしょう。ちょっと壁にぶち当たったからやめるなんて人、必要ないと思います」

「いや…うーん…」

 言う事キツいな、こいつ。まるで面接官だ。ヴロスはコーヒーと共に言葉を喉奥へと流し込んだ。

「あの試験の結果は、それこそ僕のようなダメ学生でも知ってます。それがどういう事だか分かりますよね」

「え?まあ…がっかりさせたって事だろ」

「それもありますが…つまり、みんな興味はあるんですよ。一大スクープにする価値があるからこそ、メディアも取り上げる。…誰か心当たりはありませんか。壁にぶち当たった時に逃げない人。多少の事は目をつぶってでもメンバーを集める方がよいと思います」

 一瞬、ヴロスは虚を突かれた。いち学生が口にする事とは思えなかった。

「お前…何者だ?」

「だから、うだつの上がらないダメ学生ですって。…テスターに落ちた理由も分かってます」

「…すまねえな。さすがに、公式ライセンスの無い学生には頼めねえ」

「もう一度聞きますけど、他に心当たり無いんですか?」

「…ねえな」

 そんなものあったら、ここに来ていない。

「それもそうか」織人は一人で納得していた。口に出して言ってねえよな、とヴロスは心配になった。

「次に『飛ばす』の、いつなんですか?」

 気のせいか、蒼眼から鋭い眼光が煌めいた気がした。ヴロスは無意識のうちに背筋をただす。

「次は魔法学会の2日前。これ以上の後はねぇ。…つまり2か月後。夙(しゅく)の月、39の日だ」

「……わかりました。ヴロスさんは思いつく限りの人員収集にあたってみてください。僕も出来る限りの事をやってみます」

「…まあそりゃ、やるけどよ。お前さん、何をやる気だ?」

「公式ライセンスさえあれば、問題無くなるんでしょう」

 いくつかの間を置いて、ヴロスは満面の笑みを作った。それこそ、ヴロスが言い出したかった本題だったのだ。

 どうやって説得してやる気を出させるか迷っていたが、手間が省けた。

「…へっ、そのやる気に免じて、俺をアゴで使った事は許してやる」

「どうも」

 可愛げのねぇ奴だ。誰に似たんだか知らねえが、こいつは…。

 こいつは、思ってもみない大当たりかもしれねえ。

 さっき言っていた人員収集というのは、恐らくテスターもその中に入っている。自分が使えないなら容赦なく、前述したように捨てろというのだろう。

 無論、その程度の思い付きはヴロスもしている。古馴染みで参謀になった男であれば、いくつか心当たりを教えてくれるかもしれないと思い、コンタクトを取っている。

 しかし、あまり期待は出来なかった。だからこそ、こうして普通の、ほんの少しばかり縁のあった学生ですら頼っているのだ。

(こいつ、もう既にプロジェクトの歯車ギアになっているのか)

 それを出来る奴だと思うべきか、ふてぶてしいと辟易するべきかは分からないが。


 軽食を片付け、店員が皿を下げた後。ふと気づけば結構な時間が経っていた。

 そろそろ帰らねば古馴染みとの約束に遅れてしまう。

「今更だが、聞いておきたい。お前、2か月後までにライセンスが取れると踏んでるのか?」

 ヴロスの問いに、織人は即答しなかった。珍しく苦い…というか、渋い顔をしている。

(まあ難しいわな…)

 言うまでもなく、それは難しい。本来は学生が学業に励みながら、卒業後に取得するのが一般的だからだ。学生の時取得出来なくて、従軍した後に取得するのも珍しくない。卒業間際に取得する者ですら、一握りの優秀な生徒のみ。

 それを、入学間もない学生に、あと2か月で取れと言うのだから。

「姉さんに借りは作りたくないけど…まあ、やる事をやりますよ。期待は…あんまり出来ません。すみません」

 織人は深々と頭を下げ、ヴロスは慌てた。

 元々、自分達の進めた計画なのだ。目の前の前途のある若者は縁もゆかりも無かったのだ。

「いやいや、よせよ。お前さんは何もしてねぇだろ。こっちこそ、すまねぇ。こんなむちゃくちゃな状況に踏み込ませちまった」

「…駄目もとで応募したのには、理由があります。飛行技術がもっと早く完成していれば、僕は家族を失わなかったかもしれないからです」

 ヴロスは何も答えられなかった。何があったのか、聞く事もしなかった。

「何かしたかったんです、例えそれが偽善でも。…今日の話、嬉しかったです。頑張ります、僕。それじゃ、また」

 一礼した後、織人はさっさと立ち去ってしまった。

 訳アリ、か…何があったんだか。


 ヴロスが会計を済ませ、鈴の音を鳴らして喫茶店の扉を開いた時だった。

「…城ノ島だと?」

 その場に立ち尽くし、茫然としてしまった。

 城ノ島と言えば、魔導技術総合学園の学園長と同じ苗字ではないか。

「『あの』城ノ島姫華の…もしかすると、弟って事か?」


 しばらく、ヴロスは時が経つ事も忘れて立ち尽くしていた。


 強い風によって船は動く。

 しかし強すぎる風は波を起こすのか、もしくは…。

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