記憶の底

来条 恵夢

第1話

 祖父の死が知らされたのは、何の変哲もない夏の昼下がりだった。

 夏休みで昼に入っていたバイトの休憩時間、珍しい父からの着信とメールに折り返すと、いつものようにどこかぼんやりとした声で、それでも今度ばかりは本当にぼんやりしているように、げられた。


「――うん。わかった」


 案外淡々と、短い電話を済ませる。そのまま、店に出ている店長をつかまえ、休みの段取りをつける。

 元々、盆には休みを入れていたから、被害は少ないだろう。


「今日はどうする」

「――え。ああ…。帰っても荷造りするくらいですから、時間まで働きますよ」

「そうか。無理するなよ」


 別に、そんなつもりはなかった。

 ただ。まぶしく光る店の外に目をやりながら、夏の予定が一つ、意外な形で消化されることになったのかと、奇妙な感想を得た。


 ――今年の夏は、祖父の家に行くつもりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る