怖い話の持ちネタはありませんが、奇妙なことなら一つありますよ。


 私が住んでいるアパートから徒歩五分ほどのところに、真新しい分譲住宅に隠れるようにして一軒のアパートがあるんです。人が住んでいるのかも怪しいくらいのおんぼろなんですが、確かに誰かは住んでいるみたいでした。それなりに高そうな赤いロードバイクが柱に括り付けられていましたから。

 この間、帰りが遅くなってしまいまして、日付が変わるか変わらないかという時間にその前を通ったんです。そしたら、あのアパートに通じる小道が何かで塞がれていました。最初は蜘蛛の巣のように見えたんですけど、よく見ると白い糸があっちへこっちへ通されていたんです。小道を囲う錆びた金網と金網を一本の糸で何重にもぐるぐると。糸はたぶん裁縫に使う木綿糸じゃないかなと思いますよ。暗かったし、触ったわけじゃないんで自信はありませんけどね。

 ただ、その次の日の昼間にそこを通ったときは何もなかったんです。でも金網に糸は残っていましたから、私の見間違いということじゃあなさそうでして

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