3.洞窟

みずからの考えを表に出せないこどもだった。

胸に闇をはらんだ洞窟を有していた。

人と交流すると、坑夫がカンテラを手に提げて、

洞窟の奥へと降りていく。

存在する

といえるのは、どういうときか。

私は私が存在することを、確信できないでいた。

坑夫が洞窟の入口をふりかえると、

外に風に揺れるものがあった。

外気があることはわかる。しかし、

その外気に触れることはできないでいた。

私が独り、この洞窟で擾乱を呈しても、

外の景色で花の一輪さえ揺れない。

雨が降る。

枝葉がおどり、花がおどり、人に傘を差させる。

洞窟にも侵入して濡らし、

私はそれにまたこころ乱す。

私の胸の洞窟は、ひとには存在しなかったが、

ひとはこの洞窟に知らず侵入し、

知らないままに抜けていく。

風食された洞窟が残るが、相変わらず、

洞窟は私独りのものだった。

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