第41話・アキは装う
ホールに出ると、アキは既に特別な装いで待っていた。
襟がついた白いシルクのシャツは、普段、上から二つボタンを開けてタイもしていなかったが、今日は全部のボタンをとめており、私と同じ水色のシルクのタイをつけている。
海色のベストのボタンはオパールで、細身の青くて長いジャケットを着ており、ついた五つのボタンは金ですべてアルマの紋章が入っている。
通常、ベストの外に出しているシャツの裾も、今日は貴族の男が身につける帆布の長スカートの中に入れている。
長スカートの正面には大きなアルマの紋章が太い金糸で縫いつけられ、いつもよりも重心が下がっている気がした。
靴もいつもよりも甲が太いものになっている。
頭上には金でできた大きな冠を体の一部のようにかぶっており、その正面にはダイヤで囲まれたアルマの紋章と両脇には三センチもの大きさの楕円形のサファイアがついている。
そして冠の波形の先端には大きな真珠やルビーが輝いていた。
とはいえ、どんな装いよりも見目麗しい顔立ちと立っているだけで気品のあふれる姿が一番美しく見惚れた。
私は人形のようにぎこちなくなっていたが、アキはいつもと変わらぬ様子であり、あらためて、ぽっと出の私とは違う、本物の皇子なのだと顔が赤くなった。
半年前の結婚式のときは純白を身にまとい何が何だかわからぬまま、ただ緊張して教えられたとおりに動くことで精一杯だったが、特別な装いも二度目ともなると少しは周りが見えるようになった。
本来なら互いの姿の美しさに微笑みもこぼれるところだが、アキは私が謁見で失礼にならない装いでいるかをちらりと確認しただけで、無表情のままよそを見た。
「お時間です」
と、伝えに来たラセンもジャケットを着て正装しており、皇太子の側近の割には質素でいるいつものラセンと違っており、まるきり他人のようでショックを受けた。
ラセンは私がそう思って不安でいることをわかっている顔を見せるのが精一杯で、
「アキさま」
と、うながした。
アキは目でついてくるよう私に教え、先を行ったので、そのあとに続いた。
<続く>
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