第31話・マンゲールの石切場


 飛翔とワイクがマンゲールへ入るのは簡単だった。


 よその町から連れてこられた男たちが綱で繋がれた列に混ざればよかった。


 ただ、高い石の塀に囲まれた都市の入口で鉄の手錠をかけられたことは予想外だった。


 飛翔はともかくワイクは物を見るちから以外の魔力が使えなくなった。


 鉄の手錠は魔力を封じると言うよりも、奴隷の身分に落とされたことを象徴するものだった。




 奴隷の仕事はマンゲールの地下から石を切り出すことだった。


 洞窟のような空間はひたすら暗く、昼か夜かもわからないまま松明がどこまでも灯されている。


 切り出されたあとで残された石の柱が頼りなさげにあちらこちらで天井を支えている。


 かなり奥まで進まされたあとで地下深くまで降りるように命じられた。


 そこで手錠をつけたまま道具を使って働かされる。


 高い場所に立ち、作業を監督するというよりは左右を長いムチで打つのが仕事になった男が、弱った者を特によく打ったので、飛翔は鉄の手錠では抑えきれない魔力を抑えつけるのに必死だった。


 ワイクが顔をよせる。


「この都市の市長に直談判して止めさせなくては、今いる人々を解放したところでまた新しい人々が連れてこられるだけだ」


「わかっている」


 返事がぶっきらぼうになった。




 夜中の零時から朝の四時までは天井がとても高い石牢に閉じこめられた。


 小さな入り口には分厚い板を鉄の帯で固定しビスをはめた頑丈な扉がついており、開けられたところで腰をかがめなければ中には入れなかった。


 四畳半程度のせまい場所に六人が詰めこまれる。


 歯が折れそうな硬いパンが人数分、投げ込まれ、扉は乱暴に閉められた。


 飛翔とワイクは壁にもたれながら、切り出した石で傷つき血のにじんだ手でそれを割って食べた。


 目の前には起き上がる気力もないほど衰弱した者が倒れ、


「水……、水……」


 と、うわ言のようにくり返していたが、水は石切場の脇の死んだ鳥が浮かんでいるような澱(よど)んだ噴水で、一日に二回、飲めるだけだった。


 飛翔はパンをかじっていた手を止めると、それを捨て、素早く男の前に回りこんだ。


「飛翔!」


 ワイクが止めるのも聞かず、石の床を何度かこぶしで強くたたいた。


 石が割れ、きれいな地下水が湧きでた。


「さあ、飲んで」


 倒れこんでいた男は体をのばし水を飲んだ。


 飛翔が顔をあげ、ワイクも部屋にいた者たちの表情を見たが、


「誰にも言わない」


 と、ひとりが皆の気持ちを代弁して答えた。





 〈続く〉

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