第27話・復讐のためなら飛翔ごと思いを捨てる
イシュリンに認められたレジスタンスである飛翔はすんなりとドームを作る膜をくぐり抜けて戻った。
「すごい光と音がしたから、お前に止められていても出ていこうとしていた」
すぐ内側で待っていたワイクは歩みをとめない飛翔に遅れて並ぶ。
「大丈夫だ。アルマがいたが追い返した。だが、ここの存在を知られたからには、また来られる」
「イシュリンが作ったドームを外部から破壊することはできない」
「ああ」
手を引いて連れていたサナを父親の前に出した。
「無事だったよ」
「サナ!」
父親は泣きながら抱きしめた。
「飛翔、ありがとう! 本当にありがとう!」
繰り返し礼を言った。
「気にしなくていい。でも……。おれを頼ってくれて嬉しかった」
飛翔は、正直な気持ちが口をついて出た。
あの日以来、強い緊張に縛られていた。
「また何かあったらおれが出る。償わせてほしいんだ」
リバティーが破壊されたのは飛翔のせいじゃない、というセリフをワイクは飲み込む。
かばいだてする方が人々と飛翔の距離を遠ざける。
「あれは事故だった」
と、誰かが言った。
「飛翔のせいにしたかっただけだ」
飛翔は深く息を吐いて目を閉じた。
「おれはここにいたい。イシュリンのことを信じている。おれに魔力があるからこそイシュリンのもとで魔力に溺れない生活を送りたいんだ」
「飛翔はレジスタンスを裏切っていない。無視して悪かった」
そこにいた者たちが代わる代わるに体を抱いてきた。
飛翔もようやく笑みを浮かべて抱き返す。
「ありがとう」
だが、ワイクには別の顔を見せた。
「おれは憂理をあきらめない」
ーーー
サジンはアキの宮殿へ戻ると、すぐに新しいドームの存在とレジスタンスの再興をアキに報告した。
執務室の空気が変わった。
「ドームは壊したはずなのに……」
私は落胆して卓上のノートを閉じた。
「アキ、私もう一度ドームの中へ入ってみる。飛翔とイシュリンは私が“改心”することを望んでいるはず。我々はドームを必ず叩かなくてはならない。レジスタンスを根絶やしにするために」
ノートの横を拳で叩いた。
アルマによるネイチュの完全支配は老齢の皇帝の積年の望みであり、実現した暁には皇太子であるアキに帝位を譲る考えでいると聞いた。
私が元の世界へ戻るために必要な輝く魔法陣は皇帝しか作れないものだ。
アキは皇帝の座を求め、私は輝く魔法陣を求めている。そのために“協力”しあっている。
アルマに逆らうレジスタンスの根絶は、元の世界へ戻って嫉妬心から私をおとしいれた愛流に復讐するための絶対条件だ。
そのためなら気持ちを寄せあった飛翔すら利用する。
私はネイチュに降ろされたことで愛流から“女としてけっして愛されることのないもの”を押しつけられていた。
飛翔と愛しあって結ばれることはなくなった。
ならば、飛翔ごと思いを捨てた方がいい……。
「同じ手を使うつもりはない、憂理」
アキの言葉に引き戻された。
「イシュリンが新たな拠点を構えることは想定内だ。あのドームは破壊せずに別のことで使う。だが、サジンの動きはあれでよかった。お前はよくやった」
アキはサジンをねぎらった。
「イシュリンは必ず封じる。我々の目的のために」
ガラスの壁の向こうを飛んでいた黒い鳥が一瞥(いちべつ)されて体を破裂させた。
それに憐憫(れんびん)をもたないラセンとサジン同様、私もアキの目的が自分の目的でもあることから達成させるためにはどこまでも冷酷になれた。
〈続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます