サイバーコマンド・アイアンナイト 暁のラザロ編
夜話猫
プロローグ
「もうずっと戦争になるって噂になっていたあの夜。みんながミサイルが飛んだっていっていた夜。空がぱあっと明るくなって。しばらくすると流星が降ってきたんだ。………いくつもの、いくつもの、鉄の流星が………。…あの夜、キミはどこで空を見ていたの?」
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[機密文章]
・内閣官房・防衛省・警察庁旗下 電子物理戦特殊部隊 通称「アイアンナイト」その引き継ぎファイル。官房長官からの聞き取りなどにより構成
2020年、北東アジア北洲国から発射されたミサイルは、高高度での核爆発によりEMP爆弾としての効果をなした。これにより世界中の通信や社会システムの基盤となっていた、あまたの衛星が地上に落下する事態となり、世界中の人々の目と耳、そして多くの命を奪い去ることとなった。
そして数週間の後、国々がある程度の通信能力を取り戻したとき、世界の多くの都市の一部、そして北洲国という国そのものが地図上から消滅していた。
それから16年後、2036年、正体不明のハッカーによるサイバーテロの情報提供もしくは犯行予告を得て、我が国ではその脅威に能動的、かつ物理的に対処する能力が求められていた。当時アイアンナイト結成に先立って開催された国家安全保障会議(秘密開催)から、官房長官の発言を引用する。この会議に先立ってL国で発生したサイバー扇動による国家転覆疑惑を受けての内容である。
「ここれで、かねてから不明であった、東欧のいわゆる第二次カラー革命、そして一連のアフリカの春、昨年のアジアの赤い潮で欠けていたピースがはまると思われるわけだ。2020年、あの鉄の流星の夜以前にあった、ネットとソーシャルネットワークによるサイバー扇動は、鉄の流星の夜より不安定になった無線ネットワークせいか影を潜めたが、16年の時を経て、我々が聖火台から復興ののろしを上げようとするこの時に、再び形を変えて忍び寄りつつある。各国で行われた攻撃は、今以てそれがステートスポンサード、つまりどこかの国を母体とするサイバー物理攻撃かどうかは分からぬ故、テロが起きたときに、警察と防衛どちらが主導するかの明確な答えが得られなかった。しかし、各地で行われた行動が、ハッキングによるものにせよ、軍事兵器までが持ち出されるに至った以上、これらのテロが国内で行われた場合に、警察だけで対処せよ、ということはまず無理である。
最善を望み、最悪に備えることを考え、数限りなく繰り返されてきた、神学論争は捨て、主として警察組織として働き、必要に応じて即座に自衛隊の戦力を投入することができる、その体制を試験的に設ける。いずれかの省庁の下に置かず、また必要に応じて各省の協力を得られるように、籍は内閣官房に、組織的には情報セキュリティ室にある情報調査チーム下に、自衛隊の電子物理戦部隊、警視庁サイバーSAT物理事案チーム、および各省の司法警察官のサイバー選抜人員と支援要員を併任の形で配置し、官房、警察、自衛隊、各省司法警察官いずれの身分でも活動できるようにする。
サイバー物理戦を専門とする組織は各国にあるが、その多くは常に後手に回ってきた。我が国然りだが。おそらく今回の我々のアクションは、未然にこれを防げるかどうかの試金石になるだろう。国家の歴史としても、未然に事態に備える体制を整え、これに立ち向かうことができる希有な例になるだろうと考える。」
これにより、当時、陸上自衛隊特殊作戦群下にあった、サイバーコマンド秋尾部隊を元に、サイバーコマンド「アイアンナイト」が結成される。
アイアンナイトとは一般的には、忌むべき鉄の流星の夜(IRON NIGHT)を指すが、英字表記をIRON KNIGHTとしており、厳密には同じではないものの、なぜこの名前となったのか、その経緯は不明。
実働部隊としては当初、自衛隊員9名に海上保安庁より1名が加わった10名である特務第1チームと、警視庁サイバーポリスより併任となった、ハッカー部隊40人が特務第3チームが着任した。
このうち特務第1チムームの第1突撃ユニットは、産総研が開発した、全身型外骨格式パワードスーツ「ナイトアーマー」を用い任務に当たった。
結成に当たりサイバーコマンドとして試験的に取り組んだ事件に、後に北洲臨時政府、歐亞中央国を巻き込んだ「暁のラザロ事件」の発端があり、以降この事件に取り組むことによって、政府内でのサイバー物理戦対処能力の必要性の認知へとつながった。
サイバーコマンドの結成、そして発端の事件に興味がある場合は、別途サイバーコマンドアイアンナイトの「ファイル・ゼロ」にまとめてあるので参照されたし。
ファイルの背表紙の落書き
連中に一度会って見るといい。私はこの部隊に賭けた甲斐があった。
内閣官房長官 鹿島 櫻
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