第17話 吉野家の面々 その②

「お父さん。学が可愛い彼女、連れてきてるわよ。」


佳奈が父のいわおの書斎に顔をのぞかせる。


「お。そうか。もう着いたのか。」


「知らなかったの?」


佳奈は目を丸くする。


「お母さんが呼びに来るとばかり思ってたから。」


佳奈がため息をつく。父はいつもこうなのだ。


「早く会ってあげないと、帰っちゃうわよ。」


どれ、とソファから体を起こして書斎を出て、佳奈に連れられるようにして庭に出る。





「お待たせ。」


庭で所在なさそうにしている2人は、佳奈の声でホッとした表情かおをした。


「親父、久しぶり。」


「初めまして。」


瑠奈が頭を下げる。


「これはこれは。外で立ち話もなんだから、中で…。」


「ここでいいよ。すぐ帰るから。…朝倉瑠奈さん。同じ大学に通っているんだ。俺、見合いする気ないから。瑠奈とは結婚も考えてる。」


「そうか。まあ、無理しなくてもいいぞ。まだ結婚のことなんて考えなくていい。見合い話を断るために連れてきたんだろう?お母さんが何か焦っていてな。…君も、わざわざ来てもらって済まなかったね。」


「…いえ。そんな。」


「お母さんはどう言ってるんだ?…まあ、想像がつくが。見合い話は気にするな。私からも言っておくから。」


「ありがとう。助かるよ。」


「ありがとうございます。」


佳奈がいなかったら、巌に会うこともなく帰って行くことになったのかと思うと、佳奈にも感謝である。





佳奈の運転で駅まで送ってもらう車中、瑠奈はホッとして、ぼーっとしていた。人見知りの瑠奈にとって、なかなかのミッションだったのだ。…と、唐突に佳奈が言った。


「あなた達、このまま付き合っちゃえばいいのに。」


「何言ってんだよ。」


「あら、いいじゃない。私、瑠奈ちゃんいいと思うわよ。それこそ、義妹いもうとには瑠奈ちゃんみたいな可愛いがいいわ。」


「よせよ。今日は、このために猫かぶってるだけなんだから。」


「まあ、確かにスカートに慣れてないようだったわね。でも、こんな美人さん、学がそうそうつかまえられるとは思えないわよ。」


…そうか。同性から見ても瑠奈こいつは美人の部類に入るのか。





「瑠奈ちゃん。こんな弟だけど、よろしくね。今度はゴハン行こう。」


「はい。ありがとうございます。」


駅のロータリーで言葉を交わす。


「学、また連絡してね。気をつけて帰ってね。」


「ああ。今日は、ありがとな。」


母の櫻には驚いたが姉の佳奈の優しさに癒やされた瑠奈だった。

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