第40話 魔法少女、大ピンチ!?
「あ、あるぇー? こんなハズじゃー、なかったんだが……!?」
戦いは……一方的なものになりつつあった。
愛音ちゃんの必殺技、シャイニングなんちゃら――――四本の剣を自在に操る術は、結論から言えば全く通用しなかった。
ぼくの風と同じように、鎧武者の刀の間合いに入ったかと思うと、見えない壁にぶつかったように弾かれてしまうのだ。
それでも愛音ちゃんは、武者の斬撃の合間を縫って懐に飛び込み、何発か鋭い打撃を打ち込んでいるのだが……残念ながら大したダメージは与えられていない。
ぼくを圧倒したその足技も、重く強固な鎧をまとった武者を揺るがすには至らなかったのである。
そして時間が経つにつれ、彼女の手数は減っていった。運動量自体は変わらないものの、次第に回避に
今はもう、
「あ、愛音ちゃん! 一回退いてっ!」
このままじゃ、危ない! 鎧武者の太刀筋はすでに目で追える物ではなくなっている。猫のようにしなやかな体裁きを見せる愛音ちゃんでも、あの刀の間合いに留まり続けるのは危険だ!
「こ、このアイネ様がこんなヤツに遅れを取るとわ……ひゃっ!」
愛音ちゃんの体が、突如としてバランスを崩す。さっきの斬撃で掘り返された地面に足を取られたのだ!
当然、この隙を見逃す武者ではない。ぎらりと輝く無慈悲な刃が彼女に向けて振り下ろされ――――
「あっ!」
寸前! 飛来した二本の水晶剣が愛音ちゃんの眼前で×の字に交差し、妖刀を受け止めた。時間にして一秒にも満たない刹那。水晶剣が弾き飛ばされた時には、彼女は大きく後ろに飛び退いていた。
「ふひー、何なんだよアイツ……トーヤ、お前よくあんなのの前に立ってられたな!」
「それなんだけど、実は――――」
ぼくはさっきうっかり言い忘れていた……あの鎧武者が【門】からの霊力でパワーアップを続けているという事実を説明する。
「な、なんだってー!? そーゆー事は最初に言ってくれよっ!」
「ご、ごめん! 愛音ちゃんがあんまり自信満々だったから、つい言いそびれちゃって……」
実際ぼくは、愛音ちゃんならなんとかできると思っていたのだ……ぼくが絶対敵わない程の実力を持った彼女なら、必ずこの局面を打開してくれるものだと。
けれど、現実は残酷だった。先程のぼくと同じく、愛音ちゃんの術もまた鎧武者には通じず……接近戦でも防戦一方になってしまっている。
決して、愛音ちゃんが弱いわけでは無い。恐ろしい強敵だった相手が、いざ仲間にしてみると頼りない……そんなアニメや漫画のお約束が頭をよぎったけれど、そうじゃあない。
それ以上にあの鎧武者がやばいのだ。間合いの外からの攻撃を完全に無効化し、近づけば凄まじい剣技で圧倒してくる。そんな相手が今もその力を増し続けているなんて……
「なんか……詰んでねえか、コレ」
「……うん」
思っていたより状況は深刻だ。さっきまでは、時間を稼ぎさえすればいずれ応援が来てどうにかしてくれると思っていたけれど……それは間違いだった。
時間が経てば経つほど、
ぼくの背筋を冷たいものが走った。この状況がこのまま続いたとしたらどうなるのか。あと数時間……いや、一時間もしないうちに、あの妖はもうぼく達の手には負えない強さになっているだろう。
ぼくと愛音ちゃん、それに樹希ちゃんが加わったとしても、どうにもならない程の強さに……対妖の最強戦力である霊装術者が三人がかりで敵わないとなれば、それこそ学園すべての術者を束にしたところで結果は同じ。
打つ手が無いまま、さらに時が過ぎれば――――
この学園は……終わる。術者達の総本山であり、また数多くの生徒達を抱える天御神楽学園が、妖の手に落ちるのだ。そうなったらもう、平和な日常だの学園生活だのなんて言っていられない。
「ど……どうしよう、愛音ちゃん?」
「どうにもこうにも、やるしかねーだろ、オレ達が」
ざっ、と土を踏みしめ、愛音ちゃんが一歩進み出た。
「これからオレが特攻をかける。それで倒せれば良し、そうじゃない場合は……」
「そうじゃない場合は?」
「学園の未来は、お前に託す!」
え、えぇ――――!? そんな、自爆でもするつもりなのこの娘はっ!
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「いーや、待ってる間にもヤツはどんどん強くなってくんだぜ? ここはもうヤルっきゃねーんだ!」
「そうじゃなくて……ほら、あっちを見て!」
ぼくは空を指さす。そこにはこちらに近づいてくるライトの光。耳慣れたローター音と共に飛来する、四方院家のヘリコプターの姿があった。
「ちっ、ようやくお出ましか。まったく……勿体つけやがって!」
開け放たれた側面のドアから身を乗り出したのは、紅白の霊装姿の少女。長い黒髪をなびかせた四方院の巫女、樹希ちゃんだ!
「四方院の名に
強烈なサーチライトの光に照らされた鎧武者目掛けて、一条の稲妻が炸裂する。轟音と衝撃が辺りを突き抜けて、舞い上げられた土がばらばらと降り注いだ。
「――――中々に、厄介な相手らしいわね」
ヘリから飛び降り、ぼく達の前にすたっ、と着地する樹希ちゃん。しかしその顔は……険しい。
「遅かったなぁ、イツキ! 何だか随分とお疲れの様じゃねーか。ザコ土蜘蛛の相手がそんなにしんどかったかぁ?」
愛音ちゃんの言う通りとまでは言わないけど、確かに樹希ちゃんは消耗していた。その表情もそうだし、心なしか身体を走る呪紋の輝きも鈍っているように見える。
「こっちはこっちで色々あったのよ……そんな事より、あの妖について教えなさい!」
もうもうと立ち込める土煙、その向こうには……先程までと何ら変わらぬ様子の鎧武者が
「なんか結界みてーなのがあって、遠距離からの術はさっぱり効かねーんよ。んで近づけば刀でバッサリだ」
「その上【門】から霊力を吸い込んでどんどん強さを増しているんだよ!」
ぼく達のざっくりとした説明に、樹希ちゃんは腕を組んでうーん、と考え込む。流石の彼女もこの状況では打つ手が無いのだろうか?
「あの妖気、ただの侍の怨霊とは思えないわね……灯夜、あの妖は【門】の中から現れたので間違いないの?」
「うん。出て来るところを確かに見たよ」
「そう……だとしたら厄介ね。あいつ、妖どころか
亜神……神様って事!?
「んで、どーするつもりだ? オレ達はその神をぶっ倒さなきゃーならねえんだぜ?」
「どうするもこうするも、あなたがやるのよ。最大術式、まだ出して無いんでしょ?」
「さいだい……ああ、
――――最大術式。それはその術者にとっての最大最高の術のことだ。大量の霊力とそれを制御する精神力が問われる、いわば切り札。
当然駆け出しのぼくには使えないが……二人はそれを持っている。
「もう手柄がどうこうの騒ぎじゃないでしょ。それに、一点突破の性能だけならそっちの術が上だわ。今あの結界を破れる可能性があるのは……あなただけよ」
「お、おう……イツキにしちゃあやけにこっちを持ち上げやがって。なんか調子狂うなぁ」
二人の会話を聞いていると、まるでお互いの力を認め合った
……なんだかちょっと、羨ましいかも。
「よーし、んじゃー行くぜ! 多分大丈夫だとは思うが……もしもの時はお前達に託す!」
「骨は拾ってあげるわ」
「いや、心配になるような事言わないでよっ!」
ぼくの不安をよそに、愛音ちゃんは走り出す。そして短い助走の後、「とう!」と叫んで思い切りジャンプした。何でそんな半端な場所で……と思ったけど、違う。
飛び上がった先にあったのは、階段状に整列した四本の剣。それを足場にして、彼女は更に空高くまで駆け登っていく。
「見さらせ! これがオレの最大術式だ!!」
天空に輝く月をバックに反転し、何やらカッコいいポーズを取ると、彼女は落下しながら体を丸めてくるくると回転する……前転ではなく、後転で。
「ま、まさか! 愛音ちゃんの最大術式って――――」
「……たぶん、その
その回転から突き出されたのは……右足。愛音ちゃんは右足を下にしたポーズで、まっすぐ鎧武者に向け落ちていく。もうまさかも何も無い。だってこれは、紛れもなく……
「――――キック!? 最大の術が、なんでキックなのっ!?」
ぼくのツッコミが、夜の闇にむなしく木霊する。なんだかよくわからないけど、戦いは新たな局面へと突入したの……だった?
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