地元の心霊話

蓬莱汐

近所のトンネル

 最初はただの作り話だと思っていた。


 当時、中学生だった俺は、丁度そのトンネルの近所に引っ越したばかり。どうせ、俺を怖がらせる為のものだと思い真面目に聞いてはいなかった。

 でも、一部だけ鮮明に覚えている部分があった。


『そのトンネルで焼身自殺した女がいたらしい』


 というものだ。他にも色々とあったらしいのだが、何故かこの一文だけを覚えていた。


 そのトンネルは村と村を繋ぐ、山の上の方にある。夜になると、月明かりも木々で隠れ街灯などは全くない。つまり、真っ暗なのだ。


「ちょっと見に行ってみようぜ」


 夏休みのある日、同じ地区に住む友人にそう誘われた。

 もちろん、断っていたが、結局断りきれずに行くことに。人数は俺と友人の二人。

 そのトンネルに辿り着くために勾配が激しい坂を上っていく。道中はただただ虫の多さにイライラしていた。


 トンネルの前につくと、さっきとは打って変わり、虫は一匹もいない。

 夏の夜ということもあってか、少し寒いくらいの気温。トンネル内はさらに冷え込んでいた。


「早く行って早く帰ろう」


 その意見に同意し、トンネルの真ん中辺りまで進んだ時だった。

 急に背筋が寒くなり、懐中電灯を落としてしまった。それを拾おうとしゃがんだ瞬間――


「あ……ぃ、……つぃょお」


 と、訳の分からない声のようなものが耳に入った。動物の声かとも思った。でも、田舎育ちの俺でも聞いたことがない声だったのだ。

 急いで走り、前に進んでいた友人に追い付いて、その話をすると、


「トンネル出るまでは後ろを振り返るな」


 と言われた。よくふざけたことをする友人だったが、この時の顔は忘れられないほど真剣だった。


 その後は何事もなくトンネルを抜け、隣村の明るい広場まで歩いた。

 そこで、何故振り返るといけなかったのかを聞くと、おじいちゃんから教えられていたらしい。


 俺達は帰るためにもう一度トンネルを越えなければならなかったのだが、とてもそんな勇気はない。

 隣村から大きく遠回りをして、行きの数倍の時間をかけて帰宅した。

 家に帰って父に聞くと、父も知っているらしく教えてくれた。


「焼身自殺の噂はデマだが、あのトンネルはもっとヤバイやつがある。何か聞こえたら前だけを見て直ぐに抜けろ」


 なら、あの時俺が聞いたのは何だったのだろうか。

 俺と友人は得体の知れないものに追いかけられていたことになる。



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地元の心霊話 蓬莱汐 @HOURAI28

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