水溜まりのシサミト

ぽてゆき

水溜まりのシサミト

暗い部屋に1人で居ると、


なるべく楽しい事を考えて気を紛らわしたいのに、


どうしても怖い話を思い出してしまう。



《水溜まりのシサミト》



最近流行りの都市伝説。



雨でも無いのに、


誰かが水をまいたわけでも無いのに、


道に出来た水溜まり。



茶色でも無く、


灰色でも無く、


奇妙な色した水溜まり。



それに近寄ってはいけない。


それをのぞき込んではいけない。


それはボ・・・・・・いやシサミトの"よだれ"。




シサミトの主食は人間のアキレス腱。


ゆえにシサミトは人が通る道の下に棲む。


その水溜まりはシサミトが空腹の証。


我慢できずに口から溢れたよだれ。


間違えてそこに足を踏み入れたが最後。


シサミトはその足首を自分の口元に引き寄せ、


一瞬にしてアキレス腱を喰いちぎる。


あまりの速さ故に、痛みは一切感じない。


シサミトは悲鳴がキライ。


だから痛みは与えない。


足首には、虫に刺されたような痕が残るだけ。


だから喰われたことにも気付かない。





口に入れたアキレス腱をガムのように噛み続ける。


生臭い妙味に恍惚の表情を浮かべるシサミト。


噛んでる間は空腹がおさまる。


だから、無くならないでくれ、と願いながら噛み続ける。


それでもいつか無くなってしまう。


そしたらまた、空腹に襲われる。


空腹になったらよだれが出る。


水溜まりができる。


その繰り返し。




だから口の中を掃除する暇は無い。


シサミトの口の中は菌だらけ。


足首を噛まれた人間に、それは移る。


でも痛みは感じない。


シサミトは悲鳴がキライだから。






菌は少しずつ体をむしばむ。


菌は肉が好き。


バレないように少しずつ肉を喰う。


体の端から壊死が進み、


噛まれてから433日後。


死ぬ。



変な水溜まりを見つけたら、


足を踏み入れてはダメ。


飛び越えようとしてもダメ。


シサミトは一瞬にして喰いちぎる事ができるから。


油断してはダメ。


遠回りを面倒くさがってはダメ。


死にたくなければ・・・・・・。






グゥゥゥ


腹の虫が鳴く。



気付くと口の中が空っぽ。



止めどなく溢れるよだれ。



ボクは上を見る。



水溜まり越しに人間の姿が見える。



コイッ。コッチヘコイ。



そう呟く口がニヤケテくる。


だって、


もうすぐ新鮮なアキレス腱を喰えるのダカラ。

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