012:ダンジョンのゆかいな仲間たち
イエー今日はクールでファッキンな私の仲間を紹介するぜ!
さて我が家にして世界一と自負するダンジョン『エテセ・テラ』は多層構造のダンジョンと成っている。そこには私がダンマスとして創造した、理性をもつ魔物たちが数多く『勤務』しているのは前にも書いたとおり。
ダンジョンを商会に見立ててビジネスをしている以上、其処に住まう魔物は商会員なんだね。だが同時にダンジョンの『資産』という面はどうしても拭えないため、消耗品のような扱いにも相当してしまう。つまり人件費タダの完全ブラック商会だ。なんてこった、私はそんなつもりはないというのに! 一日八時間勤務二十四時間交代制朝昼晩御飯おやつ付きだが実質チェスのコマにすぎないのだ……! ちなみに私は将棋もチェスも嫌いだけどな。
そんな暗黒メガコーポ『エテ・セテラ』の実態を書き連ねるとしよう。
まずはそうだな、スケルトンナイトの警備統括レジェンダリーマッスルスケルトンのアドゥンについて。うん何を言っているかわからないよな。骨なのに肉ってどういうことだよって言いたいのは分かる。分かるよ私も何を言っているのかわからない。
だが事実なんだ。
アドゥンはボディビルダーもかくやという肉体美もとい骨体美を誇るスケルトンなんだ。彼のフロント・ダブル・バイセップスは本当に見事なもので、見る人が見れば『うっ、美しい……ハッ!』と言ってしまうほどなんだ。私も美しいポージングの流れには思わず『うっ、美しい……ハッ!』ってつぶやいちゃうからな。
そんなものだから肉体自慢の冒険者の相談によく乗っている。彼曰く『体の資本は骨である。骨を鍛えよ、カルシウムを取るのだ』そうな。間違っちゃいない、間違っちゃいないんだがこうなんか違う。わかるかいこのニアミスするすれ違う情熱と感情ってやつを!
たしかに彼は警備隊長としてよく仕事をしてくれている。北に商人の喧嘩が荒ればこれをラリアットし、南に冒険者の諍いがあればアックスボンバーで仲裁し、東に暴れ馬がいればレインメーカーでおとなしくさせ、西にやんちゃなガキがいればオープン・ハンド・ブローで説教する。
なんて頼もしいマッスルスケルトンなんだ。わけがわからないという点をおいとけば非常に優秀なダンジョンモンスターなのだよ。今度特性プロテインを送っておこう。意味があるかはわからないけど、きっと効果はあると思う。たぶん、おそらく、めいびー。
次は前チョロっと書いたけど簡易宿泊所『ゆ~とぴあ』の宿長にしてレジェンダリーサキュバスのキュエさん。すごく露出が多いので制服代わりのエプロンを着ると裸に見える点を除けば、気立てもよくノリの良い冒険者たちのアイドルだ。
そしてお姫様願望が在る。
うんサキュバスなんだけど彼女未だに処女なんだよね。男女問わず人類の精気を吸う彼女たちからしたらぶっちゃけありえないといえよう。存在している事自体はダンジョンからの魔力供給で問題ないけれど、サキュバスである事による『性欲』そのものはいかんともしがたい。宿屋『ゆ~とぴあ』が全室完全防音、温水シャワー付きなのはそういうサービスも考慮しているからに他ならないんだな~。彼女たちはそういう魔物なんだから仕方ないよね。ちなみに搾り取りすぎないように各自注意している事と、サービスにマッサージ(サキュバス的な意味ではなく本来の意味で)もあるから女性にも評判がいい。適度な負荷は肌ツヤや髪質の向上に繋がるからね。
だがキュエさんはそれをしない。曰く『いつか私を攫ってくださる白馬の王子様が現れるんですの』だそうな。白馬の王子様ておま。
真面目な話己のアイデンティティを否定しているようなもので、存在そのものが揺らぎかねないんですけど? 前に彼女の同僚である部下キュバスちゃんに『姉さまの頭がお花畑でしんぱいでつらい』と涙ながらに相談されたのは記憶に新しい。でもいい子なので死なない程度に頑張ってほしいし、できれば王子様に見合う奴が現れれば良いんだがなぁ。なおアイザック君は白馬の王子様っぽくないかと提案したら、『寝取りはしない主義ですの』と訳のわからない理由で拒否された。どういうことだ。
次は場外販売所を取り仕切るレジェンダリーコボルトのボルト君と、超重機戦隊ギガンテズの棟梁ギーガ君かな。彼らは『エテ・セテラ』きっての真面目君たちだ。仕事に真摯であり、難しい商談や荷運びという単調な作業を嫌な顔ひとつせずこなしてくれる。
だが顔が怖い。
そう、彼らは顔が怖い。ボルト君は名前こそなんか可愛げだけど、顔は四つ目のフェンリルだからねぇ。商談がうまくいって笑うと商人が無表情になるんだ。いや脅してないよ? 彼はちゃんと心の底からビジネスが上手くいったことを心の底から喜んでいるんだ。だが鋭い犬歯が輝くように『ニチャっ』と笑うもんだから商人の人たちはビビっちゃうんだよね。でも敵意はないって知ってるからちゃんと対応はしてくれる。ようは慣れだよ慣れ。こないだなんて新作の歯磨き櫛をプレゼントされてとても喜んでいたし、商人たちとの関係も良好だとおもう。
また顔の怖さではギーガ君も負けていないらしい。彼らは一つ目なのだが、これがどうにも受け付けないらしく皆ビクビクしているんだよね。なんでや。私からすればすごくキュートでチャーミングだと思うんだが、誰も『アッハイ』としか言ってくれないんだ……一つ目かわいいやろ? かわいいやろ? いつでもニッチな趣味は受け入れられないのか……。
でも子どもたちには人気が高い。巨人が力こぶをつくってそれを椅子にぐわっと立ち上がれば楽しい遊具になるからだ。暇な時だけだが、子どもたちのほうがよっぽど本質を見抜いているよな。ちなみに力こぶ自慢に発展しないのは、マッスルスケルトン部隊が対抗してきて暑苦しくなるから私が禁じた。私はすごく偉いと思う。
次はフードコート料理長並びにテナント『小料理ピグレッツ』を営業しているレジェンダリーオークの奥村さんだ。何故和名なのか私はわからない。そして明らかに響きが『オーク村』なのも私の存じているところではない。彼は生み出した時、自然と『あっしは奥村、宜しくたのんます』と任侠映画宜しく挨拶してきたのだ。どこのヤーさんっすかね。
そしてオーク料理が超得意だ。
うん、豚肉じゃなくてオーク肉に造詣が深いんだ。オークカツレツとか絶品だけど、冒険者は皆微妙な顔をして食べているよ。『エイラッシェ! オークカツイッチョッシェ!』とオークが爽やかスマイルで振る舞うのだ。気持ちはとても分かる。ちなみにオークラードの揚げ物以外にも、角煮丼やオーク刺しなんてのもあるが絶品なんだこれ。最初は微妙な気持ちなんだが一口食べるやうめぇうめぇとがっついてしまう。そして平らげた後にあるのは、満足げな奥村さんの笑顔だ。そして微妙な気持ちになる。やめろ、その笑顔をやめろ。きっと『小料理ピグレッツ』の半分は微妙な気持ちでできているのだと私は思う。
彼の何がそこまでオークに情熱を向けさせるのだろう。試しにマグロを一本焼いてくれと頼んだところ、この世の終わりとでも言うかのように絶望していた。決して捌けないはずはないんだが、彼は捨てられた子犬のような眼で私を見るのだ。やめろ、そのめをやめろ。私は外道じゃないので引っ込めたけどさ、そこはふつう逆だろう?
次はダンジョン区画責任者達を書いていこうか。
まず新人教育兼、初級者ダンジョン『ワカバ』の監督(=ボス)、レジェンダリーゴブリンのゴブ爺さんだ。彼は生まれたときから爺さんであった。謎すぎると思うが仕方ないだろう。ロリババアがロリという概念を持っているのと同じ次元の謎なので気にする必要はないだろうね。
そして古今無双だ。
ぶっちゃけ私を除けば『エテ・セテラ』最強ランキング上位五指に入る腕前を持っている。得意技は『抜き打ち』と『無拍子』だ。地味だがこれがメッチャクチャ怖い。なにせ『斬られた』と意識させずに斬撃を完了させるからね。また抜き打ちの有効射程距離がとんでもなく長い。なにせ三間槍程の長さを割断するんだから始末に負えないんだ。通常の冒険者パーティーが彼と戦闘したならば、後衛の距離が既に殺界にあるんだから怖すぎる。
またこのシンプルな渋すぎる特技だけというのがまたヤバさを極めている。彼くらいに技を極めてくると『斬撃という概念』を操ってくるから、単純に対処方法がないんだよね。私も概念系の防御がなかったら彼と戦うのはちょっと骨だっただろう。
そんな彼であるが、性格は至って温厚かつ面倒見が良い。彼が排出する冒険者たちは質がよく、悪い子も良い子にクラスチェンジする腕前をもつ。やんちゃな貴族のガキもゴブ爺さんにかかればあらふしぎ、毅然としたノブレス・オブリージュに覚醒するのだから凄まじい。ゴブ爺さんのゴブリン・ザ・ブートキャンプはこころの性根から叩き直してくれる素晴らしいドクトリンなのだよ。
さて、『ワカバ』に監督が居るとすれば他にも居ると思うだろう。その通り、『アオバ』『クレハ』『カレハ』にもボスが居る。ふふふ驚くなかれ、ここのボスたちは全員ドラゴンなのだ。初心者にキツイと思うだろうがそうでもない。
なにせ三人兄弟だからね。
三兄弟筆頭、『アオバ』担当は末弟レジェンダリーレッサードラゴンのレツ君だ。レジェンダリーなのにレッサーってどういうことだよとか考えてはいけない。これは彼がとても気にしているデリケートな問題なのだ。誰にだって気にしていることがあるだろう? 彼はたまたまそれがレジェンダリーなのにレッサーだったってことなんだ。
ちなみに初心者パーティーはまずレツ君が『レッサーとかwww』と笑わないことを徹底的に叩き込まれる。もし煽った日にはレツ君が『悲しみの波動に目覚めたレツ君』となってパーティーに襲いかかる。そこに一切の慈悲はなく、ただ延々と死ぬだけのスパイラルに陥るのだ。なお徹底的に叩き込んでも煽る馬鹿はどうしようもないので放置です。そんな馬鹿が居なくてもウチは回るからね。
ただオフの日にベテラン冒険者の酔客から『おめぇはそんなつええのにレッサーなんて嘘だろぉよおお俺ぁ! 俺ぁーー! おめえーがすげえっっっってしってんだよおおお!! レツ君はよおおゴブのぉ爺ィなんざめじゃねええってしってっからさぁぁ!!』と絡まれるのには迷惑しているらしい。でもまんざらでもなさそうなのでとりあえず放置だ。ちなみにレツ君はコメ酒の冷やをぐいのみでキュッとやるのが好み。渋すぎる末弟だよね。
なおボスとしてのレツ君は『地上』『空中』というフィールドを用いて戦いを挑んでくる強敵なので、パーティーの総合力がないと突破することが出来ない。例えば近接のみのパーティーや、遠距離のみのパーティなんかはレツ君を前に叩きのめされることになる。方向性としては間違っちゃいないんだが、それをやるなら軍として運用しないとだね。
三兄弟次鋒、『クレハ』担当は次男レジェンダリードラゴンのレド君だ。そうレッサーがないちゃんとしたドラゴンなのである。だが彼にも非常に深刻な悩みがあった。レド君はドラゴンだが空を飛べないのだ。いわゆる水竜というやつで、水の中なら巧みに身を翻すのだが空ばっかりは飛ぶことが出来ない。なおジャンプは空を飛ぶとは言わないからね。
レド君曰く『空飛べないドラゴンなんてドラゴンじゃないやい』とよくやけ酒をしている。すまんな、『クレハ』は冒険者の環境対応に対する適応力強化も兼ねてるから、ボスフィールドの設計が海になっているんだよ。恨むならそういう設計をしたダンマスを恨むんだな。
なお彼の好みは芋焼酎だ。樽でガブガブ行くので私は君の肝臓が心配ですよ。あれでも魔物って肝硬変になるのかね? うーん、バッドステータス的にはありそうだが……研究の価値アリだな。今度ためそう。
そして三兄弟大将、『カレハ』担当はレジェンダリーレギオンレムリアドラゴンのレギ君。魔物名が長ぁい彼のあだ名は『レレレの人』だ。彼は大人なのでそこらへんで怒ったりはしない。というか『彼ら』というのが正しいんだけどね。
名前に在る『レギオン』は群体、『レムリア』は眠りを意味する。個にして全、全にして個。眠り続ける限り生み出される夢幻のレッサードラゴンを生み出し続けるのがレギ君の技だ。『カレハ』に挑戦する冒険者となると、レッサードラゴン程度は敵ではない。ではそれが十匹なら? 百匹なら? いやいや一万匹ならば? レギ君から生み出されるドラゴンの分身は無限に生み出される。ならばどうするかといえば、先ず眠りにおちているレギ君本体を探し出すこと。さらに深い眠りに落ちたレギ君を叩き起こすことが必要になる。
しかも眠っている間は夢幻の間に身をおいているから、物理的な手段で目を覚ますことはない。つまるところ『カレハ』の完全攻略をするには正に夢幻に対する干渉手段が必要なんだね。それをどのように取るかは人それぞれ……。つまり対抗手段を知らないと積む、明確なボスと言えるね。
彼等三兄弟は勿論中ボス勢をまとめ上げる任務も持っている。特にレギ君の負担が大きいが彼寝てるからなぁ。まぁ三匹そろって何とか回していますよ。
ちなみに防衛施設『イチイ』は『カレハ』を前提として、そもそもクリアさせる気が無いダンジョンなんだがなんで三十階層突破されてんだろうな……ほんま人間って面白いよね。
最後は一応ダンマスとして私を紹介しておこうかな。前にも書いたけど私は二十一のコアを持つスライムだ。ランクアップはどうやらしていない……レジェンダリーじゃないんだよなぁじつは。形態は多種多数、ただし主端末として『アイリス・エイリーズ』の姿を取っている。それ以外では名付し難い触手や蕩けた龍の頭、甲羅のない亀の足や、エラの露出した鱗なき魚の尾ひれ、無数の光を移さぬ眼球なんかが付いているね。動物10種類くらい荒くマゼマゼしたら私になるって感じ。全ては粘液による再演なので『そのもの』ではないが近似する機能を持っている。泳げるし、飛べるし、潜れるし、浮かべるし、見えるし、視える。およそ思いついたことは全てできると言っていいね。
また魔術系統はほぼ全て再演可能と言っていい。研究次第で代理、再臨等自由自在だからね。魔物としての防御強度は打撃無効、斬撃無効、刺突無効、全魔法効果無効、概念攻撃防御、対存在干渉阻害と幅広くある。通常の人類は愚か、前世の近代兵器でも私を消滅させることは出来ないだろう。戦術核、戦車砲、化学兵器等など全て即時対処可能だしな。特に放射線なんて毒にすらならないとか頭おかしいとしか。
あー、あれだ、子供あるいは大きなお友だちが考える『おれのかんがえたさいきょうのまもの』、それが私。マジでこうだから力加減は気を付けないといけないんだけど、これをブッ殺せるアイザック君はマジなにもんなんだろうね。世界の抑止力怖っ。
さらに言えばこれに地で勝とうとするアイザック君マジドMじゃないっすかね。世界の抑止力怖っ。
とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます