ひさしぶりの片割れ

@akiko_ooo

第1話



 どのくらい寝ていたんだろう。バスの心地よい振動でいつのまにか眠ってしまっていたようだ。薄く目を開くと、出発したときとは異なる木々が雑然と生えている。彼女も寝ているのだろうかと隣を見ると、予想とは違い彼女は外を眺めていた。延々と続く雑木林を、ずっと。イヤホンをしているせいか、私が起きたことには気づいていないようで、それをいいことにわたしは彼女を眺める。


 ふ、と彼女が笑った。それはなにか諦めに近いような感じがして、わたしは途端に怖くなる。彼女がどこかに行ってしまう。わたしの手の届かない場所に行ってしまう。それはもう耐えられないような恐怖で。


 思わず彼女のイヤホンを外す。わたしはもうほとんど泣きそうで、だから彼女をほとんど見ずに目を瞑る。お願いだから、ずっととは言わないから、せめて今だけはわたしのそばにいて。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひさしぶりの片割れ @akiko_ooo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る