薄明劇場

七野青葉

「月見草紙」

1.ある満月の下で

 男には一切が分からなかった。

 どうしてつらい。どうして切ない。

 何をしていても、何を見ていても、琴をつまびく指先のことや、御簾みすの先の優しげな声を思い出す。

 止めどなく溢れる思いも、しめつけられる苦しい心も、どうすればいいのか分からなかった。

 恋をしてしまったのだと男は思った。

「いつか永久になりたい」

 そう思うようになった。

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