【小説】『同志少女よ、敵を撃て』を読みました。半信半疑でしたが本当に百合で驚いた

2022年7月28日






 電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」にて、以前「百合の日」という直球なセールが開催されまして、百合好きでもある自分としては見逃せないものでした。


 セール対象作品を見たとき、思わず「ん?」となったわけですが、もちろん対象作品は百合要素のある作品ばかりなのですけど、いくつか「百合……なのか?」という作品もありました。


 その中でも一番「これ百合だったのか!?」と突っ込んだ作品を今回読んだ。去年今年と大きな話題となった有名な作品。自分もよく噂を耳にしてタイトルだけは知っていたので、せっかくの百合の日なので(?)この機会に一読。



 ちなみにBOOK☆WALKERの百合の日キャンペーンはこちら

 https://bookwalker.jp/ex/feature/liliesday2022/








  書籍情報



  著者:逢坂 冬馬


 『同志少女よ、敵を撃て』


  早川書房より出版


  刊行日:2021/11/17



  あらすじ(Amazonより転載)

 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?









 第11回アガサ・クリスティー賞において満場一致で大賞を受賞し、受賞作の書籍化でデビュー。デビュー作でありながら直木賞の候補作になり、さらには今年の本屋大賞を受賞するなど、恐らく今年一番の話題作かと。


 この作品は所謂戦争小説で、第二次世界大戦における独ソ戦を舞台に、主人公の復讐と成長を描いた長編作品。


 内容的に、ノーベル文学賞を受賞したノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ)を彷彿とさせるものがあり(実際に巻末の参考文献一覧に『戦争は女の顔をしていない』をあげている)、さながらノンフィクションの『戦争は女の顔をしていない』をフィクションとして小説化したかのようなお話です。


 この作品では緻密な歴史考証や軍事考証をしつつも、簡潔でわかりやすい描写がされているため、戦争ものに不慣れで詳しくなくとも難なく読むことができます。ただやはり『戦争は女の顔をしていない』をあらかじめおさえておいた方が、より描写への理解度が増すかも。


 というか自分が『戦争は女の顔をしていない』をきっかけにソ連の女性兵士の存在を初めて知ったくらいで、恐らく『戦争は女の顔をしていない』に触れないまま今回の『同志少女よ、敵を撃て』を読んだら「第二次世界大戦で女性狙撃兵? リアリティねぇな!」と突っ込んでいたかもしれない(自分の世界史のレベルがこの程度)。


『同志少女よ、敵を撃て』とは関係なしに、『戦争は女の顔をしていない』は教養としておさえておいて損はない名著かと思います。今ならコミカライズもされているそうなので、漫画で読んでみるのもありかと。


 というか『同志少女よ、敵を撃て』の結末で『戦争は女の顔をしていない』に繋がるシーンがあるので、概要だけでもおさえておくといいかも。






 その他、『同志少女よ、敵を撃て』は考証面のほかに小説としても、ストーリー構成が完璧。序盤の狙撃兵訓練学校のシーンはさながら学園ものの要素を取り入れつつ、中盤の戦争シーンは手に汗握る圧巻の描写であり、序盤の学園要素との激しいギャップが面白い。前線にいるかいないかの差を体感できる構成で、読んでいて没入感がありましたね。


 そしてラストの戦闘シーンにおける決着の仕方もお見事で、作中で描かれるテーマ性やメッセージ性も強調されたラストは読み応え抜群。確かに新人賞で満場一致の受賞も納得ですし、直木賞や本屋大賞で話題になるのも頷けますね。


 なんだか読み流してしまうのがもったいないくらい、いい小説。まあページ数が多いこともあるのですけど、実際自分はかなりゆっくり読んでじっくり堪能しましたね。


 ところでこの『同志少女よ、敵を撃て』は、噂ではカクヨム投稿作品だったというのを耳にしたのですけど、このレベルの傑作をカクヨムで読めたのはマジですか? なんといいますか、KADOKAWAも惜しい作品を逃しましたね。以前にもカクヨム投稿作品のSFが同じく早川書房の新人賞を受賞してデビューしましたけど、なんだか早川書房がカクヨムのマイナージャンルの受け皿となっているような気がしないでもない。これが出版社の違いか? カクヨムもKADOKAWA もラノベやライト文芸ばかりプッシュするのではなく、こういった硬派な傑作文芸作品も拾い上げるべきではなかろうか。







 さて、『同志少女よ、敵を撃て』の小説としてのクオリティを絶賛しましたが、そもそもの読むきっかけとなった百合要素について。


『同志少女よ、敵を撃て』において確かに百合的においしいシーンはあります。同性同士でキスするシーンとか。ただこれはロシアの文化的な要素が強く、同性間でも友愛の証としてキスすることもあるとのことで(自分も読んでいて初めて知った文化)、絵面としては確かに百合ではありますけど、文化的である以上はそのまま百合として解釈していいものか悩ましかった。とはいえ実際読んでいて百合的においしかったです。


 基本的に戦争小説なので、そういった百合的なシーンよりも戦争シーンの方がメインであり、実際に読んでいてあまり百合を意識しなかったですね。


 ただ最後が完全に百合展開。まさかのカップリングで「え? そういうオチになっていくの?」という百合エンドで、読後感としては「確かに百合だったな……」というものでした。終わり良ければすべて良しというわけではないですけど、終わりが百合ならすべて百合作品なのでしょう。……本当か?


 ただまあ……いち百合ファンとしては、このカップリングは妥当ではあるものの個人的には腑に落ちない。そこだけはこの作品の不満点ですね。


 とはいえこれはあくまで百合作品として読み解いたときの個人的な感想なので、本来の戦争小説としてはまさに傑作でした。







 という感じで、まさかと思って読み始めましたけど、本当に百合だった『同志少女よ、敵を撃て』でした。







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