【小説】『記憶翻訳者 いつか光になる』を読みました。SFらしい読み応えがいいですね~

2021年12月7日






 以前の自分は単行本を読まず嫌いしていました。主に値段が高いのと、かさばる大きさであるため。ですが、この一年で電子書籍派になった影響により、気になる単行本も読んでいこうと考えを改めました。


 いえ利用している電子書籍サービス「BOOK☆WALKER」が結構な頻度でポイント大幅還元や半額セールなどをやっていまして、そのおかげで高い書籍のハードルが下がった次第。電子なのでかさばらないですしね。


 そういうわけで今まで気になっていた単行本をいざ購入して読もうかと思ったら、文庫化されていたというオチ。


 ということで今回はその文庫化された方を読んでみました。タイトルは『記憶翻訳者 いつか光になる』







  書籍情報



  著者:門田 充宏


 『記憶翻訳者 いつか光になる』


  東京創元社 創元SF文庫より出版


  刊行日:2020/10/22



  あらすじ(Amazonより転載)

 人の記憶を取り出して他人にも理解できるように翻訳する技術が実用化された時代。その技術は特別な力を持ったインタープリタと呼ばれる人々によって実現されていた。珊瑚は優秀な若手インタープリタとして将来を嘱望され、さまざまな背景を持つ依頼人の記憶翻訳を手がけている。第5回創元SF短編賞受賞作「風牙」にはじまる連作短編集。文庫版オリジナル編集。










 こちらの小説は、第5回創元SF短編賞を受賞した『風牙』をもとに、受賞作を表題作とした連作短編集として単行本にて出版されたものを、この度文庫化された流れになります。


 この単行本版『風牙』の表紙のイラストが結構自分好みでして、なんといいますか、可憐な少女とある種のノスタルジックを感じさせる雰囲気など、続編である『追憶の杜』も合わせて実は以前から気になっていた小説でした。



 ということで前述通り、今回せっかくなので文庫化された方を電子書籍にて。まあ、表紙は以前のイラストではなく、なんだかまさに一般書籍のような落ち着きのあるオシャレさになっていますけどね。


 あとこの文庫化にて大幅な改稿再編成されたとのことで、一般的な文庫化とは少々違ったものとなっているらしく(単行本版を読んでいないため比較ができない)、どうやら半分ほど新規書き下ろししたそうです。その影響か、単行本版では一冊にまとまっていたものが文庫化で二冊に増えたといったところ。なんという大盤振る舞い……。







 さて、肝心の内容の方ですが、端的にサイコダイブ系のサイエンス・フィクションといったものです。


 人の記憶をレコーディングできるようになった世界観設定。ただ、単に記憶をレコーディングするだけでは本人の感覚の要素が強すぎるため、その本人にしか理解できないものでしかないといったところ。そのためレコーディングした記憶を他者にも理解できるよう汎用化することを「記憶翻訳」とした。が、通常の人間が記憶翻訳をしようにも語彙力としての感覚が異なるため、翻訳事態がうまくいかないといったところ。


 そこで活躍するのが、記憶翻訳者(インタープリタ)と呼ばれる存在。この記憶翻訳者(インタープリタ)は過剰共感能力者という、脳内のミラーニューロンが特殊に作用してしまうことにより、他の誰よりも相手のことを「わかってしまう」という特異体質な人ということになります。


 作中においてこの過剰共感能力者には能力の程度からグレード分けがされ、高グレードになると自分と他者との感覚の区別をつけることができず、自分と他者の境界が曖昧になることによって自我すらもまともに芽生えることができない状態。


 ただこうした過剰共感能力者はその特性故に、他者の感覚を自分のものとしてしまうことによって人間一人分の感覚をはるかに超える、膨大なパターンの感覚を有していることになり、記憶翻訳者(インタープリタ)としてあらゆる記憶の翻訳への適正があるということになります。



 主人公は最高グレードの過剰共感能力者であり、普段は共感ジャマーを起動させて暮らしている二十代半ばの成人女性ですが、ようやく自我が芽生えたのが十代半ばということもあり、精神年齢としてはまさに少女そのもの。小説においてはっきりとした描写がなかったため判別はできないが(見落としているだけかも知れないが)、外見としても単行本版の表紙イラストのように少女然としていると思われます。



 ……と、ここまでまるであらすじの復習みたいなことを書いてきましたが、なぜこんなかたちで記事にしているのかというと、この小説、こうして情報を整理していかないと作品なんです。まあこうして作品概要を書き起こしてみましたけど、自分自身ちゃんと理解できてるか怪しいところがありますけどね。


 専門用語や作中設定がわりとストレートに登場する、ある意味ではSFらしいSF作品といったところですね。もちろん作中でも設定の説明描写はあるのですが、少々情報量が多いのでちゃんと整理しながら読まないとわけがわからなくなる感じですかね。そういった面でいうと、この小説はSF慣れしていない方にはあまりオススメできない内容でもあります。一方でコアなSFファンにとってはまさにたまらない一作かと思います。



 というかこれらSF設定がエモく、それこそSF的に言い表すならセンス・オブ・ワンダーが抜群な内容となっているのは確か。自分としてもいちSFファンとしてニヤニヤしながら楽しく読んでました。







 ちなみにですが、SF設定が秀逸なこの小説ですけど、本筋のストーリーラインとしてはむしろヒューマンドラマ的とも言えるかもしれませんね。記憶にまつわるエピソードから人物のドラマを掘り下げていくお話がメインとなりますので、お話の要素をまとめてみると意外とシンプルにまとまっている印象です。加えて若干ミステリーの要素もあるかも。









 という感じで今回は『記憶翻訳者 いつか光になる』を読んだわけですが、とはいえ単行本版『風牙』とは違い文庫版は二冊分あるんですよね。まだ一冊目しか読んでませんけど……。


 連作短編集の後編『記憶翻訳者 みなもとに還る』は、今度はちゃんと時間を作ってじっくり読みたいですね。なんなら単行本版『風牙』の続編である『追憶の杜』も読みたいですね。とはいえ『風牙』が文庫化したから、もしかしたらそのうち『追憶の杜』も文庫化するのでは?


 でも我慢できなかったら普通に単行本として『追憶の杜』を買って読もうと思います。ほら、せっかく単行本への読まず嫌いが直ったので。










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