【漫画】『ニューノーマル』を読みました。早速ポストコロナSFが登場してきましたが、まさか性癖ものとは……

2021年2月25日






 新型コロナウイルスが世界中に影響を与えるようになって約一年が経過しました。この一年、感染者数や死亡者数は日を追うごとに増加していますし、世界各都市ではロックダウンがされ日本でも二度の緊急事態宣言が出され、経済活動としても大打撃を受けています。


 さて、そんな世界規模の大事件の渦中ではありますが、ことフィクションに関しては不謹慎ながらも恰好の題材となります。SFジャンルにおいても歴史的な大事件を題材に架空のその後を描いた作品は枚挙にいとまがありません。あえて有名どことの例をあげるとすれば、伊藤計劃の『虐殺器官』とかは9.11テロをきっかけにテロ対策として一定の監視社会となった架空の2020年代を舞台にしているなど。


 このことから、まず間違いなく歴史の教科書に記載されるレベルの出来事である新型コロナウイルスのパンデミックの、その後を描いた、所謂「コロナ以後」とか「アフターコロナ」や「ポストコロナ」のSF作品が今後多く発表されるであろうことは確実だと思われます。


 とはいえ「まあー本格的なポストコロナSFはあと一年か二年くらい経ってから発表されるんじゃね?」くらいに軽い気持ちでいたのですが、この前ツイッターのタイムラインを眺めていましたら漫画のツイートが流れてきまして、まあ漫画ツイートが流れてくることはよくあることなのですが、内容がまさにポストコロナで、しかも何気に興味深くて面白いものですから、普通に続き分を購入して読んでしまいました。


 そんなこんなで珍しくツイッターでいい掘り出し物をした漫画、タイトルは『ニューノーマル』。AmazonやBOOK☆WALKERなどにて電子書籍で出版されています。




 ちなみにですが、新型コロナウイルスのその後の呼び方は「アフターコロナ」とか「ポストコロナ」など多数ありますが、この記事に限っては「ポストコロナ」で統一しようと思います。学生の頃から英語が致命的に不得意な自分としては「after」と「post」の違いがよく理解しておらず厳密にどう使い分ければいいのかわからないのと、あとSF的なポストアポカリプス(終末もの)というサブジャンルへの親近感も合わさり、サイエンス・フィクションとしてのリスペクトも込め「ポストコロナ」としています。








  作品情報


 『ニューノーマル』


  著者:相原瑛人



  あらすじ(Amazonより転載)

「僕たちが生まれる少し前、ひとつの感染症が世界を変えた」――マスクで口元を隠すことが当たり前の日常となった近未来。世界流行<パンデミック>前の時代に密かに思いを馳せる少女・夏木とクラスメイトの秦は、ふとしたことから小さな秘密を共有する仲になり……。「新しい日常」の世界を生きる二人の「新しい非日常」の物語が、動き出す!



  ツイッターで公開されている冒頭

 https://twitter.com/a_akito17/status/1357615366730444801








 作中において新型コロナウイルスと明言はされておらず、架空の感染症として読解する内容となっていますが、作中におけるシーンの描写や設定面での考察などから、現実にある新型コロナウイルスをモチーフにした作品であることは明らかであります。


 舞台はまさにコロナ以後の近未来。とはいえそこまで離れた時代という感じでもなく、精々数十年程度の近い将来といったところでしょうか。「もし新型コロナウイルスのような感染症が蔓延したとして、果たして未来の日常はどういうものなのか?」といったアプローチがされた内容になっています。


 個人的に、狭義のSFの定義とか関係なく、もっとシンプルに「エンターテインメント化した思考実験」というSFの定義を主張しているのですが、そういう観点からみると、この『ニューノーマル』という漫画作品は実にSFらしいSF作品だった、というのが第一印象でした。



 ただSF作品であることは間違いないのですが、物語の軸となっているのはラブコメ要素。まあ作品のあらすじでは伏せられているのですが、ツイッターなどで一話の内容が公開されていますし、電子書籍サイトなどでもちょっと前まで一巻無料公開されていましたし、現在も割と低価格で読めますので、ちょっとだけネタバレ(というか作品の一番のポイントがここなので、ネタバレしないでこの作品を語ることができないのですけど)。



 作中の時代ではマスクの着用が一般化されている影響か、他人の素顔を直接見る機会がない社会となっています。そのためあらすじにある「小さな秘密」というのは「ヒロインの素顔」というものになるのですが、この素顔を見られる行為に背徳感が伴うものに変化しているといったところ。


 さながら現代でいうところのパンチラと似たようなものでしょうか。男であろうとも女性であろうとも他人に下着を見られるのは恥ずかしいかと思います。そういうパンチラのような羞恥心が「素顔を見られる」という行為にプラスされた未来といえるでしょう。


 まあ個人的な性癖で言うならば、下着というものは普段見えないものだからこそフェティシズムを感じるのであって、たとえば堂々と下着姿でオープンされていると全然ありがたみが感じられないというもの。パンチラはそういった普段見えるはずもないものがチラリズムするからこそ価値があると考えています。


 そういったパンチラに通ずるチラリズムからのフェティシズムをあろうことか感染症対策のマスクに応用させたのが、この『ニューノーマル』というSF作品であって、この「マスクの向こう側の素顔」を見てしまったことによって始まる性癖的なラブコメがまた面白いポイントとなっているのです。







 ただこのヒロインの素顔を見てしまうというフェティシズムは、言ってしまえば作品の掴みとしての要素が強いといったところ。もちろんこのフェティシズムから発展していくラブコメ展開は面白いのですが、その背景、漫画作品としての画としての背景というよりは、SF作品としての設定面での背景がとても興味深いところが、個人的にこの作品で感じた魅力の一つであります(もちろん素顔チラのフェティシズムも魅力的です)。


 その設定面の背景を感じさせるのが4話目(4巻)で、感染症対応を強いられる社会というのを感じさせ、さながらディストピアの様相を呈している点や、またウイルスの変異によって感染症の性質そのものが変化した結果の症状はパニックホラーを予感させるものであります。これらはSFネタとしては王道的ともいえる定番で、決してコロナにまつわる大喜利作品に終わらせない、確かなSFとしての文脈を感じさせ、いちSFファンとしてとても読み応えのある作品だったような気がします。


 なんていえばいいんでしょう、設定面のSFとストーリーラインのラブコメのバランスがよく、どちらの要素もマニアックに掘り下げていくのではなく適度に混ぜ合わせていることにより、読み手が抱く物語への興味を深めている、といえばいいのでしょうか。SFとして狭義のハードSFにせず、またラブコメとして品のない下ネタをせず上品なエロスにまとめている、そういった匙加減がうまい作品だと感じましたね。









 というのが、ポストコロナを描いた作品『ニューノーマル』の感想でした。今発表されているものはまだまだ話の途中までで、今後どういう物語が展開されていき、そしてポストコロナSFとしてもそうですし青春ラブコメとしてもどうオチをつけていくのかが気になるところであります。


 そういうのもあって、今後公開されるであろう最新話に注目していきたいですね。





 ということで、ツイッターをきっかけに出会った漫画作品『ニューノーマル』についてでした。






 というかちゃんと一つの作品として仕上げられたポストコロナSFにて、自分が最初に読んだのがまさかのフェチSFだとは思いもしなかったよ。なんか盲点をとられた感じ。




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