【小説】『失恋の準備をお願いします』を読みました。実に文芸的なラブコメ作品ですねコレ

2021年3月9日





 前回の冒頭でも書きましたが、今年から電子書籍サービス「BOOK☆WALKER」を本格的に使い始めまして、割と定期的に開催される半額セールや還元セールにたいへんお世話になっております。


 そして前回では、講談社の書籍が半額セールになったことから講談社タイガを中心に購入した小説を読んで記事にしましたが、今回も前回同様半額セールで買った講談社タイガ作品を読んで感じたことを書いていきます。いやーなかなか、いい掘り出し物でして、タイトルは『失恋の準備をお願いします』です。






  書籍情報



  著者:浅倉 秋成


 『失恋の準備をお願いします』


  講談社 講談社タイガより出版


  刊行日:2020/12/15



  あらすじ(Amazonより転載)

「あなたとはお付き合いできません―わたし、魔法使いだから」告白を断るため適当な嘘をついてしまった女子高生。しかし彼は、君のためなら魔法界を敵に回しても構わないと、永遠の愛を誓う。フリたい私とめげない彼。異常にモテて人間関係が破綻しそうな男子高生。盗癖のある女子に惹かれる男の子。恋と嘘は絡みあい、やがて町をのみ込む渦になる。ぐるぐる回る伏線だらけの恋物語!








 この作品は元々単行本として発表されたもので、それを文庫化したものとなります。ちなみに単行本版のタイトルが『失恋覚悟のラウンドアバウト』で、文庫化にあたり改題したみたいです。とはいえ元タイトルは文庫版の最後のエピソードの題名として残っています。いやむしろ単行本版は単に最終エピソードをそのままタイトルにしたパターンなのかも。





 この『失恋の準備をお願いします』(旧:『失恋覚悟のラウンドアバウト』)を一言で表すと、まあ「ラブコメ」ですかね。


 ただラブコメ作品として接する機会が多いものといえばライトノベルや漫画、それこそアニメなどといった、変な言い方ですけどオタク的なラブコメですが、この作品に関してはそういったオタク的なラブコメ作品ではなく、もっとこう文芸的に恋愛で喜劇を描いたような感じ。


 登場人物たちの言動がいい意味で馬鹿馬鹿しく、またそういったコミカルなシーンをテンポよく流し込んでくる感覚。


 あとネタとしても天丼が多用されていて、たとえばあらすじに書いてある内容を例にすると、女子高生が告白の断り方で悩んでいる際にたまたま目にした魔法少女ものアニメに影響されて自身に魔法使い設定をつけ、それでもなお断り切れず今度はまたしてもたまたま目にした戦争映画に影響されて魔法大戦が勃発すると言い訳するなど、告白を断ろうとすればするほど女子高生の設定が盛り盛りになっていく天丼。また別エピソードでは仕事を辞めたいサラリーマンが不祥事を起こしてクビになろうと画策するものの逆効果となり、不祥事を起こそうとすればするほど社内で出世していってしまうという天丼。


 なんとなくですけど、ただただキャラクターの面白いやり取りだけを描こうとするのではなく、ちゃんとお笑いを分析して研究しているかのようなコメディの描き方をされているという印象ですかね。


 またこういったお笑いの定番ネタにプラスアルファとして、文芸作品が得意とする叙述トリックを用いたシーンもあるといったところ。


 さらにはそれらコミカルな登場人物たちやドタバタ騒動の結果などが、最終的に大きな騒動に繋がっていくといった構成で、構成としては一応連作短編ものではあるのですが、絶妙に配置された登場人物や数多くの伏線など、むしろ一つの大きな群像劇としての一面が強いような気がします。


 とくに最後のエピソード『失恋覚悟のラウンドアバウト』においては、それまでのエピソードで描かれてきた人物やシーンが伏線として活用され、しかも一切無駄のない華麗な伏線回収をしていくあたり、非常に秀逸なストーリー構成だと感じましたね。



 それらの意味でいえば、オタク的なラブコメみたいにラッキースケベみたいな安易なお色気だったり、とくに深みのないただただ騒いでいるだけのギャグだったり(別にライトノベルや漫画やアニメ特有のラブコメを否定しているわけではありません)とは違った、真っ当にコメディを描いた文芸作品といった印象を受けましたね。いや別にオタク的なラブコメは全然否定しませんけど。



 なんていえばいいですかね……これは完全に感覚的なものであって全然イメージは違うのですけど、なんとなくですけど三谷幸喜作品みたいな匂いがするような気がします。いや単に喜劇を群像劇でやるのが三谷幸喜作品くらいしか出てこなかっただけでして、ものとしては全然違うのですけどね。



 なんでしょう、ニュアンス的には、この『失恋の準備をお願いします』という作品は「コメディ」というよりは「喜劇」って感じなんですよね。コメディと喜劇の違いが果たしてどこにあるのかという定義の問題に発展しそうではありますが、個人的なイメージの問題ですけどより文芸的に洗練されたようなものを感じ取りました。


 ただ一応、「恋愛」や「失恋」を題材にしたお笑い作品だから「ラブコメ」、というジャンル分けになるのではないでしょうか? ラノベや漫画やアニメとは違うタイプのラブコメ作品でしたね。








 という感じで『失恋の準備をお願いします』を読みました。いやーセールだといい掘り出し物に出会えますね。今後もセールの度に掘り出し物を期待したいです。








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