【小説】『人ノ町』を読みました。表紙のイメージって重要なんですね
2019年11月9日
今回も、大体いつも通りAmazonを彷徨っていたときに見つけた小説を読みました。いやはや、Amazonのオススメはなかなか侮れないっス。
読んだ作品は『人ノ町』です。内容が好みで面白そうと感じたのもありますが、今回は完全に表紙買いしたものです。
書籍情報
著者:詠坂 雄二
『人ノ町』
新潮社 新潮文庫nexより出版
刊行日:2019/7/26
あらすじ(Amazonより転載)
この世界の謎と、旅人(かのじょ)。
滅びゆく世界で、遺された町々を巡る彼女は何者か、その目的は――。
〈正解〉に瞠目する究極のミステリー。
旅人は彷徨い続ける。文明が衰退し、崩れ行く世界を。風に吹かれ、犬を抱き、烈日に照らされ、極光を仰ぎ、石を積み、王と謁見し、終わりの無い旅路を歩き続ける。点在する町々で目にした、人々の不可思議な営みは、一体何を意味するのか。彼女が辿り着く、ある驚愕「禁忌」とは!?数多の断片が鮮やかに収斂し、運命に導かれるようにこの世界の真実と、「彼女」の正体が明らかになる。いま再注目の圧倒的鬼才による、読者の認知の枠組みをも揺さぶる異形の連作ミステリー。
小説の内容としましては、文明衰退後の終末世界を旅するお話。訪れるそれぞれの土地で、その町の風習や文化を主人公である旅人の「彼女」目線で語られていきます。イメージとしましてはライトノベル『キノの旅』をSFにしたような感じですかね。主人公が町にとって外界の存在であるため、町の様子を客観的に捉えているとこもあり、そこからくるエキゾチックさによる思想や哲学が描かれています。終末世界という設定も合わさり、ポストアポカリプスもののSFとしてとても面白く感じられました。
作者さんがミステリー作家であったり、また作品のあらすじの内容であったりと、なにかとミステリー推しな小説でもありますが、一方でライトな哲学の要素やサイエンス・フィクションとしてのガジェットやギミックなどもあり、個人的にはミステリー以上にSF要素の方が強い印象を受けましたね。
とは言いつつも、終末世界という設定面でのSFと、訪れた町の風土について理解を深め真相を見出すミステリーという、設定と物語で異なる要素を組み合わせつつも互いに喧嘩することなく巧みに融合されている点は素晴らしいの一言です。エモーショナルな設定でありつつ本筋のストーリーは追うべきものがしっかり用意されている、といった具合ですかね。やっぱり広義的なミステリー要素は物語の基本である、ということを改めて実感した作品でした。
さて、この『人ノ町』という小説は、数年前に新潮社より単行本で出版されており、今年になってから新潮社のライト文芸レーベルである新潮文庫nexにて文庫化された作品です。その際に表紙も一新されました。
文庫版の表紙のイラストを描いたのは、漫画家のつくみず先生です。つくみず氏といえば、代表作に『少女終末旅行』があります。『少女終末旅行』は2017年の秋にアニメ放送され、原作漫画は翌年に完結。さらに今年、第50回星雲賞コミック部門を受賞しました。SF漫画として名作になるかと思います。
そうです。『少女終末旅行』の作者です。
廃墟となった巨大都市を二人の女の子が探索する、あの『少女終末旅行』です。
『少女終末旅行』の作者さんが、文明衰退後の世界を旅する女性旅人が主人公の小説『人ノ町』の表紙を描いているのです。これはもう完全に狙っていますね! 狙いすぎてあからさまですよ!!
文庫版『人ノ町』の表紙も、人気のないさびれた町に女性旅人が佇んでいるという、『人ノ町』の世界観をちゃんと捉えて描かれていまして、小説の内容としっかり合致してはいます。ですけど、建物の造形であったり、あと何より『少女終末旅行』に登場したような謎オブジェクトも描かれているため、つくみず氏の作風がいかんなく発揮されたイラストとなっております。
以上のことにより、もうほぼほぼ『少女終末旅行』なんですよコレ。
で、この表紙イラストにホイホイ釣られて購入して読んだ私としては、やっぱり表紙のイメージが小説にも影響されまして、この『人ノ町』を読んでいるときどうしても『少女終末旅行』風な世界観を想像してしまうのです。というか内容も似ているので、半分くらいは『少女終末旅行』を小説で読んでいるような感覚になっていました。
先程この作品のことを「ライトノベル『キノの旅』をSFにしたような感じ」と表現しましたが、むしろ「『少女終末旅行』っぽい」と表現した方が正確に作品のイメージが伝わるような気さえしてきました。それほどまでに、漫画家つくみず先生の作風が強いんですよね。
ただこの「『少女終末旅行』っぽい」というイメージは、恐らく文庫版だけに限定されると思います。
というのも、単行本版『人ノ町』をググってみたのですが、単行本版の表紙はどことなくオカルティックな様相を呈しており、不気味さも相まって「これはホラー小説かな?」といった印象を受けるものとなっています。
この表紙であれば、むしろ『世にも奇妙な物語』を彷彿とさせます。この小説が連作短編であることもあり、また訪れる町の奇妙さもあって、例のBGMやタモリさんの前説が流れても全然違和感がないくらいに、イメージが合致するのではと感じました。
そうして感じたことは、「小説の表紙を含む、作品のパッケージって、実は内容を左右するほどの影響力があるものなのでは?」といったものです。
だって、文庫版の印象が『少女終末旅行』で、単行本版の印象が『世にも奇妙な物語』ですからね……。追加エピソードが収録されているとはいえ内容的には全く変わらないはずなのに、表紙だけでここまで印象が変わってしまうのは驚きですね。素直に驚愕を禁じ得ない。……いやもしかしたら自分だけかもしれませんけど。
といった具合で表紙に左右されてしまった作品ではありますが、しかし終末SFミステリーという内容として純粋に面白く、とても楽しめた小説でした。なかなか、いい読書でしたね。気になる方は手に取ってみてはいかがでしょうか?
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