【小説】『下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。』を紹介。カクヨムユーザーは全員読んだ方がいいよ。いやホントに

2018年9月2日 公開




 ぼちぼちこのエッセイ擬きを更新しようと思い、取り上げる作品を選ぶことに。部屋にある本棚には扉ありまして(埃除けとして)、こちらの本棚は「読み返したい本」だけを残すようにしていて大切に保管しているのです。その本棚も年に一度整理して、情がなくなったものは処分し、この一年で気に入ったものを新たに加えていきますので、本棚の中はとても濃いタイトルがギッシリ……。


 そんな選りすぐりの本棚の中から一冊を紹介。……しようと思い、書く前にパラパラとページを捲り振り返ってみたのですが、いつの間にかガッツリ読んでました。イカンもうすぐ日付が変わる……(追記:書いているうちに日付変わりました!)。読んでいる場合じゃない。


 というわけで紹介。タイトルは『下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。』です。






  書籍情報


  著者:野村美月


 『下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。』


  KADOKAWA ファミ通文庫より出版


  刊行日:2015/6/29


  以下、エンターブレインのページ

  https://www.enterbrain.co.jp/product/pocketbook/fami_novel/14280001



  あらすじ


 「わたしに、ライトノベルの書きかたを教えてください」

 平凡な高校生の青は、実はラノベ新人賞の下読みのエキスパートだ。そんな彼は、ある日応募原稿の中に、同じクラスの氷ノ宮氷雪の作品を見つける。"氷の淑女"と呼ばれる孤高の少女が、フォント変えや顔文字だらけのラノベを書いて投稿している!? 驚く青だが、その後ひょんなことから彼女の投稿作にアドバイスをすることに。評価シートに傷つく氷雪をあたたかく導き、世界観、キャラ設定、プロットと、順調に進んでいくが……。爽やかな青春創作ストーリー!




 作者は『“文学少女”シリーズ』の方です。



 あらすじでわかる通り、創作系の青春作品です。


 小説の作者と読者の関係をそのままボーイミーツガールに落とし込んだものでして、小説と真剣に向き合っている方には突き刺さるものがあると思います。現に作中で描かれている創作論はとても参考になるものばかりです。


 小説の書き方から投稿の小ネタなど、新人賞あるあるネタに溢れており、小説を書いたことのある方なら目から鱗の話ばかり。また物語も王道ボーイミーツガールものとして読み応えがあり、文章構成やストーリー展開など、本編そのものが物語のお手本として機能しています。そのため実際に小説を楽しみながら創作の勉強ができる、物書きとしては一石二鳥の作品となっております。



 しかしながらこの作品のメッセージ性は、作者宛てというよりはむしろ読者に向けられているものだと、個人的には思います。


 確かに物書きとして勉強になるネタばかりですが、しかしそのネタは下読みのバイトをしている主人公の視点で描かれているのです。作者→作者のアドバイスではなく、読者→作者のアドバイスなのです。だからこそ創作論云々の前に、主人公は読者としての立場で純粋に小説と向き合い楽しんでいるのです。


 小説に限らずどんな物事でも同じだと思いますが、「アドバイス」ってものすごく難しいことだと思います。単純に「欠点を指摘する」ということをすればいいのですが、しかし頭ごなしに批判しても、じゃあそこからどう改善すればいいのかが見えてこないと、それはただ作品と作者を貶しているだけになってしまいます。でもだからといって褒めるだけでは瑕疵が改善されないままです。


 よって、人様にアドバイスをするということは、、というのが大事になるかと思います。この三つが揃うことで、はじめて「アドバイス」になるのです。



 つまり読み手として「面白かったー!」「つまらなかったー……」では済まされず、作品を深く読み込み考察して解釈するという、が求められるのです。



 主人公の少年は本当に読書が好きで、どんな小説だろうが面白く読んでしまいます。作中でも出てきますが、未熟な作品はその未熟さが、瑕のある作品はその瑕が、書きなれた作品にはその技術が……、「つまらない」という感覚がわからず、全部が面白い、と。主人公はそれらも含めて作品の要素として読み込み、楽しんでしまうのです。客観的ににみるとこの主人公とんでもないなーと思いますが、しかし読者として考えると、これほどまでに読む才能のある読者はいないかと思います。


 また、これは引用ですが、主人公の親戚のおじさんの言葉で「他人の作品が、いかにつまらなかったかをドヤ顔で長弁舌するようになったらおしまいさ。あれは最高に醜悪だ」というものがありますが、まさに物語の受け手側としてとても突き刺さる言葉だと感じました。



 物語を楽しむのも大切ですが、作者が心血を注いて書きあげた作品に対して、読者としても真剣に向き合い受け止める、そんな受け手側としての矜持を示された気分にもなります。



 クソな作品でもクソのまま受けと取らず、そこに何かしらの解釈をもって受け入れる。



 そういった意味では、この『下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。』という小説は、作者に向けた創作ネタという一面を含めつつ、読者としてのリテラシーとは何たるか、というメッセージ性が含まれていると思います。




 小説投稿サイト「カクヨム」は、その名前の通り「書いて読む」ということを大事にしていまして、作者としても読者としても様々な機能が実装されており、またこれからも発展していくサービスだと感じております。


 作者としてレベルアップしていくのはもちろん結構なことですが、読者としてのリテラシーも磨いていくのも大事かと思います。とくにカクヨム内で「書く」と「読む」を両立しているユーザーなら、読者としてのインプットが自分の作品にプラスとして作用することもありますから。作品の読み方一つ、捉え方の一つで、その作品から得られるものは随分と変わってくるかと思います。


 そして読み専の方、もしくは執筆オンリーな方も、作品に対する向き合い方一つで作品の面白さは跳ね上がると私は考えています。そしてこれは意識一つで変えられることだと思います。消費者として作品を消費して、また書きたいことだけを書いて放置するのではなく、今一度しっかりと「物語」に向き合ってみてはどうでしょうか。多分ですが、「物語」にまつわる世界が変わると思います。




 というわけで『下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。』オススメです。カクヨムユーザーなら読んで損はない作品ですので。




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