第27話

「聞いたか? これで一連の事件の犯人も動機も、すべてわかった」

「…………!」


 透子の口から出た台詞に、藤木の瞳に一瞬怯えが走った。そしてすぐに腑に落ちたのか、悔しそうに言葉を吐いた。


「……そうか、弟の方か……!」

「なんだと?」田之上も目を剥いて、ベッドの上の少女を凝視した。「どういうことだ」


「――話は全て聞かせて貰った」


 二人がはっと声のした方を振り返った。途端、藤木の血の気が引いた。


「福田……警部……!」

「残念だよ、藤木」福田は鋭い眼光で藤木を射抜く。「お前は優秀な部下だった」


 後ろから警官が数人駆け寄り、あっという間に二人を取り押さえた。後ろ手に手錠をかけられ膝をついた姿勢の藤木は、信じがたいという顔つきで福田を呆然と見上げた。


「明様から連絡を頂いたときは耳を疑ったよ」


「初めから妙だと思うべきだった」駆けつけた警官にベルトを解かれた透子――に、化けた明はゆっくりと身を起こした。「初めて家に来た日、透子の噂を聞いたと言っていた割に、僕のことを知らなかった」


 福田が頷く。


「反対に、私は明様の噂しか聞いたことがなかった。透子様の存在さえ知らなかった」

「一般的にはそれが普通なんです。透子のことは父が隠していますから、知る人ぞ知るといったところですかね。しかし透子の噂を聞くなら、その前に当然僕のことも耳に入るはずなんです。だが華族の令嬢ばかり探していた藤木巡査は、僕のことなどたとえ聞いたとしても頭には入らなかったのでしょう。あの日、不思議だなとは思ったのです」

「ワシは悪くないぞ! ワシは移植できる心臓があれば、と言っただけだ! 人殺しまでしろとは言ってない!」

「同じことだろう。――連れていけ」


 福田が命令し、田之上は意味のわからないことを喚きながら連行されていった。


「疑いだすと、色々あるんだよな」明は続けた。「僕が夕食を誘ったとき。透子がつんのめって藤木の胸にぶつかったらとても痛がっていた。胸を怪我していたんだろ? あのあとも、胸ら辺をこっそり庇っていたのを、見てはいたんだ」

「そうか、二人目の被害者、森川子爵令嬢の爪に血痕付きの皮膚がついていたのは……」


「そう……私のですよ」藤木が顔をしかめながら後を引き継いだ。「あの娘、こちらが驚くほど抵抗しましたからね。シャツがボロボロになってしまった。まだ痣が消えないんです」


「それに透子を孤児院に連れて行き、わざと帰りを遅らせ、僕と仲違いさせたのも狙いだったんだな。透子を操りやすくするために」

「貴方さえいなければ、透子さんは寂しさから必ず私についてくるとふんだんです」

「透子の孤独を強調し、僕が苛立つように馴れ馴れしく『透子さん』と連呼して。……まんまと引っ掛かったよ」


「言っておきますが、初めから透子さんを狙っていたわけではありませんよ」ふてくされたように藤木は言った。「先の三人は確かにそれ目的で近づきましたがね。でも仕事関係の人を標的にするなんて考えはなかった」

「じゃあ何故、今回に限り気が変わった?」

「どうして……でしょうね。初めは本当に、寂しさを受け止めてあげたいと思っていたんですが……どこで、間違ったんでしょうね」


 ふと、真剣に考え込む仕草をしたが、すぐに「考えても仕方のないことか」と一人ごちた。


「しかし……何故私が犯人だと確信を得たんです?」


 藤木は納得がいかない顔つきで聞いた。すると明は、警官たちが立ち去ったドアの方に視線を移した。つられて藤木も目をやる。そして、すぐに顔をこわばらせた。

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