第11話
第11話
「――疲れてる?」
はっと気づくと、明が傍でじっと見つめている。せっかく忙しい時間を割いて勉強を教えてくれているのに、教本を眺めていただけの自分を叱咤する。
明は学校から帰ってきても幾人もの家庭教師がやってくる。語学、経済学、パーティーのマナ―、その他諸々。父の跡を継いで貴族院議員となるための社交性まで教え込まれる。
それでも透子といる時に、疲れを見せたことはない。愚痴すら聞いたことがない。いつも和やかな空気を纏い、透子の気持ちを聞いてくれる。話しやすいように誘導してくれる。
けれど今は、今日あったことを喋る気になれなかった。どうしてだか少しの間、自分の中で大事におさめておきたかった。
「というより上の空だね。どうしたの」
「ちょっと……眠くて」
ふぅん、と明はしばらく透子を見つめていたがやがて視線を外し、「じゃぁ、寝ようか」と言った。
ごめんね、と心の中で謝って、手をつないだままベッドに潜りこむ。
悟られただろうか、心が踊っていること。
幸せな気分の余韻に浸っていること。
「――最近は入れ替わらなくてもいいんだね」
小さく声がした。早くて聞き取れなかったので、え? と聞き返したが、背を向けた明から返答はなかった。寝言かと思い、目を閉じた。
寝入った後、明が起き上がり、長い間考え事をしていたのを透子は気づかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます